166)高橋源一郎氏と大学入学共通テスト

 皆さんは高橋源一郎という小説家をご存じですか?

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 インターネットのウィキペディア他によると、次のように説明されている。

 

 日本の小説家、文学者、文芸評論家。明治学院大学名誉教授。現在71歳、広島県出身。散文詩的な文体で、教養的なハイカルチャーから、マンガ・テレビといった大衆文化までを幅広く引用した、パロディなどを駆使する前衛的な作風。日本のポストモダン文学を代表する作家の1人である。

 

 私自身は、源一郎氏の書物を読んだことがなく、彼に対する知識はほとんどなかった。NHKラジオの「高橋源一郎飛ぶ教室」を2、3度聞いたことがある程度だ。

「俺が俺が・・・」というタイプで、謙虚さが全くない、まず自分が先に出たがる人である。

              イラスト無料小野文恵アナウンサー に対する画像結果.サイズ: 72 x 110。ソース: cinta-is-l0ve.blogspot.com

 相方のMCは、NHKの見本ともいうべき小野文恵アナウンサーで、最近は慣れてきたようだが、最初のころは、彼のやりたい放題な性格とは、なかなかそりが合わなかった。

 50分の番組で、前半が最近話題の本の紹介、後半がその作者であったり、また、最近話題の専門家との対話である。前後半とも雑談っぽさが目立つが、内容は濃い。

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 いつも番組の初めに源一郎氏が挨拶をするのだが、今回の番組の挨拶は彼らしくなく、しみじみしたもので、私はつい引き込まれてしまった。

話題のテーマは、大学入学共通テスト不正事件についてである。以下は、彼の話をそのまま書き起こしたものである。。

 

「こんばんは、作家の高橋源一郎です。

 大学入学共通テストの問題が試験中に流出した事件で、受験生の19歳の女性が警察に出頭しました。いったん大学に入学したあと、もっといい大学に入りたいという思いで、受験しようとしたのです。

 僕はこのニュースをとても複雑な気持ちで聞きました。

 僕自身は2度受験をしています。

 1度目は私立の名門中学を受験しました。

              イラスト無料じんましん に対する画像結果

 受験当日の朝、緊張のあまり、生まれてはじめて体中に蕁麻疹(じんましん)が出ました。結果は不合格。ひどく落胆しましたが、気持ちを切り替えて、公立の中学に進学しようと決めました。

 それからしばらくして、補欠合格の連絡がありました。喜びと戸惑いの入り混じった不思議な気持ちでした。

 大学受験は国立一期校。合格するつもりだったのに不合格。落胆というよりショックでした。

 実は一番簡単な数学の問題が、ひどい勘違いで零点だったのです。急きょ、国立二期校を受けました。当日かつてないほど歯が痛み出し、1問解いては呻きながら歯を押さえ、また1問解いては歯を押さえてました。

        イラスト無料歯が痛い に対する画像結果

 これはもうダメだと思ったら、合格していました。

あとで聞くと、激痛で試験時間の1/4は歯を押さえて、机に突っ伏していた数学が一番良かったそうです。

 

 そして入学。けれども学生運動に参加するようになって、8年在学して、満期退学。

        イラスト無料学生運動 に対する画像結果

 あのとき合格ではなく不合格だったら。不合格でなく合格だったら。僕の人生は全く違うものになっていたと思います。でも、それがどんな人生なのかは分からないのですが。

 人生は変わるかもしれない。いや、変わると思うから、目の前の事件が巨大に見えてきます。恐ろしいでしょう? 悪魔に魂を打ってでも合格したいとさえ思うでしょう。

 

 僕は大学教員として入試問題の作成もしてきました。だから、不正をする受験生を責める気にはなれないのです。不正などできず、その受験生の力を判断できるような問題は、作れます。ただ、あまりに手間がかかるため、現実には不可能なだけです。それは受験生の問題というより、大学の側、受け入れる側の問題なのだと思います。

 

 今回不正をした受験生は、何らかのペナルティを受けることになるでしょう。けれども、絶望することなく、もう一度前向きに生きてほしいと思います。

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 人生にはいくつも分岐点があって、どれが正しかったのかは永遠に分からないのですから。

 

 それでは、夜開く「飛ぶ教室」始めましょう。」

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 話のあとで小野文恵アナが「不正ができない良い問題って、どんな問題ですか?」と聞いていた。

 源一郎氏は「あるテーマを与えて、5時間ぐらいかけて、目の前で書かせるような問題・・・」というようなことを言っていた。この点は私も賛成で、彼が教育者として日ごろ入試問題について深く考えているのが分かる。

 源一郎氏の話は、自分の挫折を通して、「長い人生いろんなことが起こる、大学入学試験に失敗したからといって(また、不正をした受験生も含めて)、それで人生が決まるものではない、何が正しかったかは分からないのだから、乗り越えてほしい」、というようなことを言いたかったのであろう。

 自己主張の強そうな源一郎氏が、いつもと違って、妙に静かで温かく、しみじみしていたのが印象的であった。

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