269)『雑草のふしぎ』を読んで

           

 

 NHK朝ドラの「らんまん」(2023年4月~同10月)がヒットした。植物に全人生を捧げる主人公 牧野富太郎・寿衛(すえ)夫妻の生き方を見て、野に咲く植物や雑草に興味を持った方々も多かったのだろう。

『雑草のふしぎ』稲垣栄洋(いながきひでひろ 静岡大学教授 道草研究家)は、ドラマが話題のころ(2023年)に出版された。副題として「面白すぎて時間を忘れる」とある。

 この本に取り上げられている雑草は、雑草にあまり馴染みのない私でも聞いたことがあるものが多い。

カヤツリグサ、ツメクサ、カラスノエンドウホトケノザツユクサ、スミレ、ナズナオナモミ、ヨシ、ススキ、ヒメジョオンなど26種になる。それらについて、花びら、おしべ、めしべ、花粉、種子、蜜、茎、葉、根、昆虫などとの関わり方などが、興味深く説明されている。

 本を読んで、色々のことを学んだ。例えば、ニホンタンポポセイヨウタンポポの違い。

 

        ニホンタンポポ

 

        セイヨウタンポポ

 

 ニホンタンポポは古くから日本にあるもので、セイヨウタンポポは明治時代以降に海外からやってきたタンポポである。前者は集まって咲き、アブの力を借りて受粉する。後者は一株で咲き、昆虫の力を借りなくても、自分で種子を作る能力を持っている。

 ニホンタンポポは春にしか咲かない。一方、セイヨウアンポポは、一年中花を咲かせることができる。それを聞くと、ニホンタンポポセイヨウタンポポに負けてしまうのではないかと思ってしまうが、そうではない。ニホンタンポポは日本の自然をよく知っていて、他の雑草が生い茂る夏には「夏眠」といって眠ってしまう。そして、秋が訪れると、再び葉を伸ばし、冬を越して春には花を咲かせる。セイヨウタンポポは、夏にも花を咲かせようとするので、春になると疲れてしまい、競争に負けて、生存できなくなってしまう。

 

 著者の稲垣氏はいくつかの雑草を比べ、どちらが賢く生きているかを、ユーモアたっぷりに説明してくれる。

 ツユクサはその青い花に黄色のおしべが印象的だが、なぜ夏の朝に咲くのか。

ツユクサはアブに花粉を運んでもらう植物である。しかし、春はたくさんの花が咲くので、ツユクサにとっては競争相手が多い。それで、競争相手の少なくなる夏を待って、それもアブが元気な朝早くを選んで花を咲かせるという。

 

        

 

 稲垣氏は、雑草が、抜いても抜いても生えてくる理由も説明している。

草取りされるような環境に生える雑草は、すでに先代が次々に種子を作り、土の中にばらまいている。人が草取りをすると、種子は土とかき混ぜられ、土の中にはたくさんの雑草の種子がためられていく。また、草取りをすると土がかき混ぜられて、土の中に光が差し込む。チャンスを待っていた雑草の種子は、光が当たったことを合図に一斉に芽を吹き出す。種子にとっては、人間が芽生えの手助けをしてくれたということになる。草取りをしたはずなのに、数日もすれば、一斉に雑草が生えてくる。

こうして、人間が抜いても抜いても、雑草はそれをチャンスのように、生えてくるというわけである。

        

 

 稲垣氏によると、雑草は「雑な草」である。沢山の種類の雑草がある。そして、さまざまな生き方をしている。(雑草は)自分が成功しても、それに一切こだわらず、さまざまな子孫を残す。成功の方法は一つではないことを知っているし、生き方に答えがないことも知っているのだという。

 

稲垣氏は問いかける。そして、次のように答えている。

 

「雑」とは何だろう。

雑は整理されない力である。

雑は枠に収まらない力である。

雑は常識や思い込みに囚われない力である。

雑は変化する力である。

そして、雑は新しいものを生み出す力である。

 

そうだとすると、今の時代にこそ、「雑」はふさわしい。