81)料理研究家小林まさるさん

NHK第一放送では毎日午後11時5分から翌朝の5時まで、「深夜便」という深夜番組を放送している。民放なんかの深夜番組と違って、いろいろ工夫され、夜中寝られない、また、夜中も働いている人達に向けての珠玉の放送番組である。

いろいろの内容が用意されているが、朝4時のニュースのあとに「明日へのことば」という40分程度の番組がある。現在各界で活躍している、いろいろの分野の方を招いてのインタビュー番組である。有名人のときもあるが、一つの仕事に身を捧げて、生き生きと活躍する市井人の生き様を描くことも多い。

今朝の「明日へのことば」の登場人物は、小林まさるという高齢のおっちゃんであった。いや、実は何冊も本を出しておられる料理研究家である。

小林さんは樺太で生まれ、若くして北海道に移動、美唄では炭鉱で技術者として働いた。炭鉱閉鎖後は千葉の鉄鋼関係の会社で働いていた。奥さんは体があまり強くなく、小林さんの定年前に逝去、小林さんは長男夫婦と暮らすことになる。

長男の妻が料理研究家であったこともあり、義理の娘のアシスタントとして料理作りを手伝うようになる。70歳のときのことである。

その後はテレビに出たり、本を出版したりして、彼に言わせれば「棚ぼた式の人生」を歩んでいく。とともに、どんどん有名人になる。

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「明日へのことば」を聞いている分には気さくな、そして活動的なシニアという感じである。家では朝の弁当作りから始まって、拭き掃除からトイレの掃除まで何でもやる。それも、自分から進んで活発にやるおっちゃんである。

元気に活躍して、世間的な評価を得ている人に共通に言えることは、その人がすごく明るいこと、活発な行動派であること、そして、率直で、謙虚で、爽やかな性格の持ち主であるということである。

彼はいくつかの会社から料理の仕事を持ちかけられるようになるのであるが、それもたぶん彼の飾らない率直さが、その会社の上司に気に入られたのだろうと想像するに難くない。

率直さと行動力、そして、明るい人の良さのようなものが、人から好かれ、人に認められる原動力になると思うが、小林さんはその典型であろう。

彼は昭和8年生まれであるから、87歳になる。今後の予定や夢を聞かれたとき、彼はこう答えた。

 

「月一回ぐらいでいいから、おいしい酒の肴を作るような料理教室を開きたい。3時間ぐらい料理作りを勉強したら、あとの1時間はみんなでおいしいお酒を飲みながら、わいわい、他愛ない昔話に花を咲かせるような、誰でもが参加できる教室にしたい。」

 

定年後、コーヒーショップとか、皆が集まれるような店を持ちたいと言う人が多いが、そこにはコーヒーや料理作りそのものより、人が集まって暖かい集まりが持てるような場所を作りたいという気持ちが含まれているように思える。人が最後に求めるものは、そうした人との関わり、話し合い、慰め合いなのかもしれない。

小林さんがインタビューの最後に、「世の定年を迎えた男性たちへの料理作りのアドバイス」を求められたとき、彼はこんなことを言っていた。

 

「世の男性は料理作りを始めるというと、すぐに高価な包丁を買ってきたり、道具を揃えようとしたりする。また、食材もいろいろな高級食材を買い求めようとする。しかし、初めは冷蔵庫の中にある物でいいんですよ。冷蔵庫に入っている物を使って、どうしたらおいしい物が作れるかを考えることから始める。

例えば、豆腐や納豆はたいてい冷蔵庫に入ってるでしょう? 普通に食べるんではなくて、豆腐に塩辛をのせてみるとか、キムチをのせてみる。納豆にオクラを入れてみる、シーチキンを入れてみる。

そういうことから始めればいいんですよ。最初は簡単なことから始めて、難しいことはあとから少しずつやっていけばいいんですよ。」

 

彼のインタビューを聞いていて、楽しい気分になったとともに、料理の根本を教えてもらった気がする。また、料理だけでなく、人生の中で、チャンスをどうつかんで生かしていくかについても教えてもらった。こういう人の話を聞いていると、こちらまで元気が出てくるものだ。