82)花のアプリ

ずっと花の名前を覚えたいと思ってきた。知っているのは、バラとかカーネーション、せいぜい水仙、テッセンぐらいまでだ。散歩に行くたびに花の名前が分かったらなあという思いが強くなっていた。

そうした時に新聞か何かで「花のアプリ」があることを知った。スマホでアプリをダウンロードして、名前を知りたい花にスマホをかざせば、名前を教えてくれるというものだった。

少し迷いがあったが、ある日、私は「花のアプリ」にアクセスした。

アプリを入手するときにネックとなるのは、それが有料か無料かという点である。私のようにスマホに不案内な人間は、入手の手続きをしているうちに、いつの間にか有料の道を辿っていることがある。

「花のアプリ」は複数あった。使用者の人数も、使用者の評価も点数で出ていた。私はあまりよく分からないまま、評価が高そうなアプリを選んだ。

アプリが手元に届くまでにいくつか手続きがあって、途中で分からなくなってしまった。「まあ、いいや、ともかく実際に動かしながら考えよう」と、私はスマホ片手に散歩に出かけた。

公園を通る。足元に小さな白い花が塊になって咲いている。地味な花であるが、塊になると可憐で、きれいだ。

「しまった、やっぱり老眼鏡を持って来るべきだった」

アプリの指示が小さすぎて読めない。画面を近づけて必死で読み取る。「名前を調べる」という枠の下に小さく「教えてカメラ」という長四角の指示枠(アイコン)がある。そこを押すと、カメラ画面になった。スマホをカメラに近づけて写真を撮ることができる。

その先が分からない。また、画面に目を近づけて、必死で読みとる。長細いアイコンがいくつかある。

そのうちの「写真を使用」のアイコンを押し、次に一番上の「調べる」のアイコンを押す。そうすると、時間が少しかかるが、アプリが花の名前を探し出してくれる。10秒、いや、もう少し速いこともあるが、比較的に短時間で画面に花の名前が出る。

花の名前は候補として9つ出る。9つにはすべて写真が付いている。花の名前が一つだけばっちり出るのではなくて、「もしかして」という言葉とともに、人工知能が形や色から考えた可能性を出してくるのだ。

9つは多いなあと思いながら、まあいいや、今日は初めてだから、家に帰ってゆっくり見てみよう。ともかく今日は気がついた花の写真を撮っていこう。

家に帰るまでに20個近くの花を撮影した。全部9つの可能性が出てくる。アプリに対して「ふーん、この程度か」という気持ちはあった。しかし、もし植物図鑑を使ったとしても、数ある花の一覧の中から当該の花を見つけるのは難しい。似ているようで、これだと特定することはできない場合が多い。

その日は時間がなかったので、日を置いて花アプリを見てみた。少し落ち着いてから、写した写真はどうなっているんだろう、保存されているのかなど、知りたいことがいっぱいあった。

写した20個近くの花の写真は「アルバム」にちゃんと保存されていた。「アルバム」というアイコンを押すと写した写真を時系列ですべて見ることができる。

そして、面白いなと思ったのは、このアプリを使用しているメンバー会員が「花」についての情報を寄せることができることである。複数の人が情報を寄せるので、そのたびにスマホのチャイムが鳴るのが煩わしいが、彼らの情報が、人工知能が挙げる9つの可能性をより明確に絞り込む形で提示される。つまり、人工知能の判断を、「花」について詳しい人間が補強するという形になる。

最初は9つの可能性を、この程度かと思っていたが、これはアプリの使用者自身が花の名前を絞り込めることでもあるということが分かる。9つの中には、自分の浅い知識からでも、明らかにこれじゃないというのが分かることが多く、自分自身で花の名前の可能性をどんどん絞り込んでいける。

写した写真がアルバムとして残り、花の名前がより絞り込まれて、いつでもすぐに引き出せる。花の名前が一度や二度では覚えられない私には、手元でいつでも見られるというのは有難い。

世の中は電子化でどんどん便利になる。そこまで便利にしなくてもと思うものもあるが、「花のアプリ」は地味ではあるが、特に植物愛好家には喜ばれるのではないか。「虫のアプリ」「魚のアプリ」「樹木のあぷり」「葉っぱのアプリ」なんかも出てくる可能性はある。楽しみにしたい。