脳科学者の茂木健一郎は昔は怒りっぽい人間であったという。しかし、現在では、もちろん怒りを感じることはあるが、適切にコントロールすることができるようになった。
著書『怒らない脳』 (2020,徳間書店)によると、人の怒りがピークを保つのはせいぜい10秒程度なので、その10秒を乗り越えれば怒りを抑えることができるという。
茂木は本書で10秒を乗り越える怒りのコントロール法いくつか挙げているが、継続的に「怒らない人」になるためには、「怒らない習慣を身につける」ことが大切であるそうである。
茂木さんはその習慣について、次のように紹介している。
【怒らない人になる習慣を身につける方法】
・(相手の)いいところを見つける。
いいところを見るようにすれば、相手がちょっとイラッとさせる行動をしたとしても、「そういうところもあるよね」と受け流すことができる。
・ボーッとする。
人間の脳にはデフォルト・モード・ネットワークという、何もしていない時に働くアイデア回路がある。それはイライラしたり、カーッとなる時には働かない。一日5分でもボーとした時間を作って、新しい回路を働かせよう。
・一日のうち、せめて5分は何もしない時間を作ろう。
前項「ボーッとする」と同じ。
・雑談する。
くさんの回路を使う、脳を活性化する行動・手段でもある。1日数分でいいので、「雑談タイム」を設けて、なるべく多くの人と話をし、共感するようにする。
・慣れないことをやってみる。
誰にでも慣れないことはたくさんある。それを一つずつやっていけば、脳に新しい回路が作られ、脳を活性化する。
・人にものを頼まない。
人にものを頼むことは、むしろ怒りを誘発する原因になりかねない。できることはなるべく自分でやる。そうした自律的な生き方が怒らない人になる道となる。
・ながら仕事をする。
同時に複数のことをすることは、脳に新しい回路が開かれ、脳を活性化する。
・キレイな言葉を使う。
きれいな言葉を使っていると、思考や行動、価値観にもそれが反映される。
・朝早く起きる
朝早起きをすると、幸せホルモンであるセロトニンが分泌しやすくなる。それによって共感力が強まり、怒りを覚えることが少なくなる。
・気遣いをする。
相手が喜んだり満足したりするように、こちらが適切に行動する。相手の脳を「快」にすることで、自分自身の脳も「快」なる。(「快」とは「楽しく/気持ちよく」する/なるの意味)
・成功した人を祝福する。
成功した人を羨む、ねたむのではなく、自分のことのように彼らの活躍を喜べば、脳が「快」になる。
皆さんはこの10の事柄がいくつできるでしょうか? 一見、難しくないように思えますが、実は意外に簡単ではなく、やっぱり努力が要るかもしれません。
茂木さんの『怒らない脳』を読んでいた時、次のような詩に出会った。いらだたしい気持ちに対する作者のとらえ方が、私の心に非常に深く響いてきた。
作者は現役銀行員であり、詩人である。
「新しい靴下」 田中冬二
銀行へ出ていて
ふと、いらだたしい気になることがある
そのときわたしは思う
今日わたしは 新しい靴下をはいているのだ、と
その思いがわずかに
悲しい心を制してくれる
この詩は、私達人間は、「新しい靴下をはいている」という、ほんの小さなことにでも、いらだちを静めたり、元気をもらったりできるのだを言っている。