272)有吉佐和子『青い壺』を読んで

          


 最近は大型書店でなくても入口の近くに「売り上げベスト10」の本を順位にそって並べているところが多い。10の本を順番に見ていたら、7位か8位に有吉佐和子の『青い壺』があった。「へぇ、どうして有吉佐和子が?」と怪訝に思ったが、私より10歳位年上で、彼女の本を見ながら育った私は、なつかしい気持ちになった。

 

    


 『恍惚の人』でセンセーションを巻き起こし、しかし、その前にも『紀の川』『花岡青洲の妻』などが人気で、映画化されたり舞台化されたりしていた。

 

 

              

                

 『青い壷』は1977年に出版され、 のち文庫化された。私が手にしたのは文庫本で、最初からどこか懐かしい気持ちで読み始めることができ、最後まで平易で読みやすく、楽しむことができた。自分が関西人だということもあるが、有吉作品はどこか庶民的で、オープンなところがある。そこで多く取り上げられている舞台は、時代は違うが谷崎潤一郎の『細雪』を偲ばせる。

 

            

 

 「青い壺」のあらすじは次のようである。

陶芸家牧田省三が焼き上げた青磁の壺は、彼が今まで焼き上げた作品の中で飛びぬけて美しい壺であった。青磁の上品な青さがその滑らかさとつややかさで輝いていた。やがて省三の壺はそれに見合った桐の箱に入れられる。

 

       

 

 『青い壺』は13の連作短編からなり、青磁の壺が次々と人手に渡っていく様子が、そこに登場する持ち主の人間模様とともに描き出されている。

定年退職後の虚無を味わう夫婦、戦前の上流社会を懐かしむ老婆、45年ぶりにスペインに帰郷する修道女、観察眼に自信を持つ美術評論家など・・・。

美しい青磁の壺が、これらの人々に手に渡り、また、売られたり盗まれたりしながら、十余年後に作者省三と再会するまでを、それを巡る人々の人生を描いた小説である。

        

 解説者の平松洋子はあとがきの中で、「青い壺は、美とは何か、本当の美しさとは何かを、人間の機微がさかんに蠢く日常の中でさらりと問いかけてくる。それは茶道をたしなみ、和服を好み、歌舞伎にのめり込み、日本文化と深く関わり合いながら、有吉佐和子が培っていった自身への問いかけでもあったろう」と記している。

    

       

      


 40数年も前に出版された『青い壺』が書店でベスト10に入っている理由は、インターネットを調べて少しわかってきた。

 文藝春秋社によると、有吉佐和子さん没後40周年目に、昭和から令和をつなぐ話題の著書『青い壺』が累計45万部を突破した。

 長年にわたって愛されてきた本作は、有吉佐和子記念館館長からのメッセージや、『三千円の使いかた』の作者原田ひ香さんの推薦コメントなどが追い風となり、昨年から再ブレイクし始めた。有吉佐和子さん(1931-1984)の没後40周年の今年、大きな注目を集めているということである。