芸人ヒロシさんは、「ヒロシです・・・」で始まる、いわゆる自虐ネタでブレークした。そのハンサムで、一見さびしそうな顔は、若い女の子にも人気があった。彼の基本的なスタイルは、ポケットに手を突っ込み上目使いで「ヒロシです」と名乗ってから、うつむきつつ、九州弁の「とです。」でネタを言って笑いをとる、というものである。
彼の、人とはあまり交わらない生き方は、私なんかも惹かれるものがあった。浮き沈みの激しい芸能界で、彼も浮き沈みしながら、映画にも出たり、本を出版したり、YouTube『ヒロシチャンネル』をやったり、それなりの収入と地位を築いてきた。
車の事故や故障などでお世話になっているJAFから、毎月JAF Mateという小冊子が届く。車に関する記事や写真が満載で、小冊子ながらなかなか読みごたえがある。
その巻頭ページに「しあわって何だろう」というエッセイが載っている。毎月書き手が変わり、それぞれが自分の思う幸せについて語る1ページである。
今回はヒロシさんが担当であった。彼のタイトルは「ひとりでいい」であった。
最近は1人で行くソロキャンプの動画などで、また持てはやされているようだが、彼のエッセイの中に、私の心を打つところが何か所かあった。
「若いときはいろんな感情がふんだんにありました。
『なんであいつがあんな女の人と付き合えるんだ!』とか、『なんであいつがあんなに金を持ってるんだ!』とか。
「妬(ねた)みの塊(かたまり)でした。
でも結局、「他人は他人」って実感できるようになりました。
そんな気持ちを持ったって、自分の幸せにはならないんですから。
女にモテる他人を妬んだって、自分はモテないんだから。
モテたいなら、自分がその努力をするしかないですよね。」
人間は自分をすぐ人と比較したがる。人と比較して相手がうまく行っていると、羨んだり、落ち込んだりする。私もそうだった。それが、ヒロシさんのように、「他人は他人」と割り切れるようになったのは、つい最近のことだ。70歳になってからのことだ。
ヒロシさんは、今49歳だから、私なんかよりずっと若くして、人を羨むことの無意味さを悟ったのだ。偉いもんだ。
彼はエッセイを続ける。
「今は時代が変化してきているから、経験しなくていいことや考える必要のないことは避けて、『自分が頑張る』っていうことが大切なんじゃないでしょうか。
僕はなるべく余計な他人とは関わらない。時と場合によっては、もちろん寂しいと感じることもあるので、同じマインドを持った仲間と交流しています。ただ『ひとりで生きていく』という想いは持っています。」
「経験しなくていいことや考える必要のないことは避けて」は、「みんなに合わせて、または情報に振り回されて、あれもこれもやらないで」の意味だろうか。今どきの、情報に振り回され、自分に自信を失っている若者達が、そうであることへの冷静な見方だろうか。
「ひとりなんて無理なんです。それはわかっているんです。・・・(中略)ただ僕が言いたいのは、『みんなでないといけない』という考え方が好きではないんです」
自分一人の孤独を守りながら、適切に人やコミュニティとも関わっていく、逆に、積極的に人やコミュニティと関わりながら、自分を失うことなく自分の個性や孤独も守っていく・・・。
このような「自分」と「人やコミュニティ」との関わりのあり方は、いろいろな程度や段階があるだろう。それは人によって選択の幅があるであろう。しかし、それを上手に選び、こなしていくことが、たぶん現代を生きる我々に課せられた生き方の一つであろう。