144)コロナ禍での首相の呼びかけ

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 当ブログ「115)菅首相の話し方」で菅首相の話し方がやや遠慮しすぎることを書いた。

 あれからいろいろなことがあった。政局に関して言えば、菅首相はお膝元である横浜での市長選挙に大敗し、より厳しく政治手腕が問われることになった。

 今回はもう少し突っ込んで、コロナ禍に対する首相の国民への呼びかけについて書いてみたい。

 

 オリンピックが始まって、町への人出や人の流れが増えていると言う。国や都からの、何度にもわたるステイホーム要請や不要不急の外出の自粛、夜の飲食自粛の要請にもかかわらず、特に、3、40代の人達のコロナ感染が増えていると言う。

 日本人はコロナ感染の増加を国や都のせいのように思っているのか、自分たちの問題としてコロナに立ち向かおうという様子が全く見えない。国民にまるで当事者意識というものが育っていない。

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 彼らはお客様であり、国や都はお客様に丁寧に呼びかけて協力していただくという形をとっている。

 なぜこのような、自分達には責任はない、国や都のやり方が悪いのだ、国や都の対策が甘いのだ、全て国や都の責任だ、どうしてくれるんだ?という態度が日本人の中に育ったのであろうか?

 

 菅首相は謙虚で、言葉も丁寧なので、あまり批判はしたくないが、彼が最初から国民をお客様にしないで、対等の立場で、「いっしょにコロナをやっつけよう」と訴えていたら、国民の当事者意識も、もう少しは育っていたのではないかと思う。

 過去の菅首相の国民への呼びかけを見てみよう。

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 緊急事態宣言の延長について菅首相は国民に次のように呼びかけた。(下線は筆者)

 

「延長は大変心苦しい思いではありますけれども、ゴールデンウィークが終わった今、一番大事な時期でありますので、国民の皆さんのご協力をお願い申し上げます

 

 飲食店への種類提供自粛についてのお願いで、首相は国民に次のように呼びかけた。

 

「各都府県において、飲食店の見回りを拡大し、対策の実効性を高めていく。酒を伴う飲食はどうしてもマスクを外す時間が長くなり、大きな声での会話も避けられない。飲食店の皆さんにはたび重なるお願いで大変申し訳なく思うが、今一度、何とぞ協力をお願い申し上げる

 

 コロナワクチン接種のお願いで、首相は国民に次のように呼びかけた。

 

「昨年来、一進一退の感染対策が続き、国民の皆様にはそのたびに、ご迷惑をおかけしてきた。未知の敵とのたたかいは、私にとっても心が休まる時はない。しかし、ワクチンによって、変異株であっても、発症や重症化を大きく抑えることができ、治療薬の開発も進んでいる」

 

 再度の緊急事態宣言の延長のお願いで、首相は国民に次のように呼びかけた。

 

「前回の宣言を解除してから3週間で再び宣言に至り、国民の皆様にさまざまな負担をかけることは、大変申し訳ない思いだ。しかし、この期間を乗り越えて、安心の日常を必ず取り戻すという決意で取り組んでいく」

 

 菅首相が使う表現は、「国民の皆さんのご協力をお願い申し上げます」「たび重なるお願いで大変申し訳なく思うが、今一度、何とぞ協力をお願い申し上げる」「国民の皆様には」など、「ご迷惑をおかけしてきた」「大変申し訳ない思いだ」のように、相手をたてて、丁寧に丁寧に話している」 

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 私はふと思う。菅首相が、最初の時期から、「国民の皆様へのお願い」ではなくて、「大変申し訳ない」「ご迷惑をおかけする」ではなくて、「みんなで一緒に、自分達のこととして、コロナ撲滅に頑張ろうではないか」「自分達のために、知恵を出し合い、努力し、3密を避けようではないか」と訴えかけられなかったのだろうかと。

 なぜ、「皆でいっしょに戦おう」「政府も都も力の限りを尽くす。皆さんの協力をしてください」と、単刀直入になぜ働きかけなかったのだろうか? 

 

 そうすれば、多少政府の至らないところがあっても、患者数が増えても、コロナワクチンが十分行きわたらなくても、日本人は自分たちのこととして、問題解決に努力しようとしたであろうし、解決できない場合は、政府を責めるのではなく、喜んで我慢したのではなかったかと思う。

 

 コロナが起こったのは何も菅首相のせいではない。押さえきれないのも、たぶん他の指導者がやってみても、そう大差はなかったにちがいない。

  国民と向き合う、説明する、話しかけるということは、国民をそばに感じ、ふところに入って話すということである。

  菅さんが現在会見で話しているデータや数字の発表は、すべて官房長官にやらせて、菅さんは最後の部分の、または最初の部分の呼びかけで、誠意ある本音の吐露、心からの訴えを、国民のほうを向いて、心をこめてすればいいと思うのだが・・・。