122)公園の白い猫

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 1か月前ごろから1匹の白猫が町内の公園に住み着くようになった。

それほど大型ではない。初めて見たときは、佐野洋子氏の絵本『100万回生きたねこ』に出てくる白猫を連想させた。きれいな猫である。

 私はどちらかというと犬派で、何を考えているのか分からない猫は苦手である。

 

 私の住む町内は自治会がしっかりしていて、公園の維持管理も怠りがない。春には桜が満開になり、町内の人が芝生にシートを敷いて、花見を楽しむ。広い芝も、以前は犬の糞があちらこちらにあったが、自治会のうるさいほどの呼びかけで、最近は見かけなくなった。

            

 犬の糞にうるさい自治会であるから、どうして野良猫が公園に住み着くのを許しているのだろうと思った。

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 近くには白猫が住めるように、段ボール箱まで置かれている。よく見ると、箱の上には、「ボランティア 白いネコちゃんのおうちです。捨てないで下さい」と書かれている。

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 箱は猫が1匹入ればいっぱいになる小さなものだが、座布団のような敷物まで敷いてある。周りにはアルミの水入れ、小さなエサ用の入れ物も置いてある。

 

 しばらくするうちに、私は自治会云々というようなことはどうでもよくなってきた。私の中では、白猫が真っ白できれいだということのほうが勝っていて、毎日の散歩の終わりに公園に寄り、白猫の存在を確かめるようになっていた。

 白猫はほとんどの日は生け垣の中で眠っている。ドーンと体を寝そべらせて、目を閉じて眠っている。神経質な猫だと、人の気配、小さな物音にも敏感に目を覚ます。いや、たいていの猫はそうだ。しかし、この白猫は目を閉じたままだ。太陽の光をさんさんと浴びて、微動だにしない。

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 白猫は段ボールの中にいることはほとんどない。この1か月で、風の強い、本当に寒かった日に、1度だけ白猫が段ボールに入っているのを見た。その日はスマホを持って来なかったので、非常に残念な気がしたものだ。白猫が歩いているのも1度しか見たことがない。

 

 ある日散歩の帰りに公園に寄ったら、あの白猫が水道の方向に歩いているのに出くわした。

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 公園には子供用の水飲み場があって、低めの高さに水道の蛇口がある。白猫が蛇口に向かっているのだろうということはすぐ想像できた。猫が辺りをきょろきょろするのではなく、まっすぐに水道の方向に向かっていたからだ。

 蛇口は平常は閉じられている。白猫が行っても蛇口が開くことはない。私は意地悪に、しばらく様子を見ていた。白猫は蛇口のそばにぴたりと座ってじっとしている。水も出ないのに、じっと待っている。1分も経ったろうか。

 私は「しょうがないなあ」とつぶやきながら、猫に近づいた。蛇口をひねってやろうと思ったからだ。私が近づいていくと、白猫は座ったまま、私の顔を見て「ニャー」と大きな声で泣いた。まるで、「蛇口を開けてよ」とでも言うかのようだった。私が近づいても動こうともせず、じっと待っている。

 私は蛇口をひねった。水が勢いよく出てくるので、水量を小さくして猫が飲みやすいようにしてやった。猫はもうペロペロと流れる水を飲み始めていた。

  飲むこと、飲むこと・・・! 

 1分、1分30秒・・・。

 

 私は退屈になって空を見上げた。雲一つない青空で、気持ちがいい。

 一息置いて私は蛇口を見た。しかし、そこには猫はいなかった。さっきまで水を飲み続けていた猫が消えている。「え~っ」と言って私はあたりを見回した。

最初は見つからなかったが、後ろを見ると、猫はのしのしと、自分のいつもの寝場所に向かって歩いている。お尻を向けたままで、私のほうを振り返ろうともしない。

 

「えー何よ、お礼も言わないの!」

 

 私は少し腹が立った。執着しないというか、知らんぷりというか、猫はいつもそうだ。感謝という気持ちがない。

 

「やっぱり猫は好きではない。犬のほうが愛想があっていいわ」と私は思った。

 

 白猫は今も公園に住み続けている。桜のころになると、人出も多くなり、女性や子供が白猫に話しかけたり、背中をなぜているシーンも見かけるようになった。

 

 そして私は、今日もまた、白猫の存在を確認するために、公園に寄るのである。

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