65)カモの旅立ち

 一日に一回は散歩に行く。昼ご飯が済んで一休みしたあと、午後1時過ぎに行くことが多いが、夏場は暑いので午前中に出かけることも多い。

 時間は2030分。散歩コースは3つか4つほどあって、その日の気分で決める。その一つが、近所の子供公園に隣接している野球場を回って、春はさくらで賑わう桜の杜公園の端を通って帰って来るコース。

 その野球場は少年野球の練習場で、2つの試合が同時にできる大きさがある。そして、野球場の端に縦6、7メートル、横6070メートルの調整池がある。

 調整池というのは、洪水などを防ぐために雨水を一時的に溜めて、水量を調整する池である。

 10月末になると、その調整池にカモが集まってくる。黒褐色と黄褐色を合わせたような色合いで、30~40センチぐらいの大きさである。

 カモは毎年飛来してくる。多い時で30数羽にもなる。

 散歩もルーティン化してくると退屈になるので、カモのその日の飛来数を数えるのがだんだん散歩の楽しみになっていった。今日は何羽、昨日より増えた減ったと自分の中で大騒ぎすることで、散歩に目的ができたようで楽しくなる。

 10月は10羽台だったが、11月に入ると、15羽、17羽からすぐに20羽を超えた。23羽の日が一番多かった。そして、たまに30羽を超える。

 いつ見ても、カモの3分の1は池の中に入っている。つがいだろうか、2羽ずつペアになって泳いでいることが多い。1羽が方向転換すると、必ずもう1羽も方向転換する。何を食べているのだろう。池の中に首を突っ込んではエサを探している。

 残りの3分の2は池の周りの土手にうずくまっている。バラバラではなくて4羽ぐらいで1グループを作っている。気持ちよく日向ぼっこをしているという感じだ。

 私はほとんど毎日調整池に来ているが、用事で来られなくて何日か空くと、カモが大きくなっているのがわかる。4月ごろになると、体も太って、お尻の白い部分が大きくなってふさふさしている。

 数羽しかいないこともあったが、そんな日は彼らはどこに行っているのだろうか

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 同じ時期に、時々サギが現れる。サギはいつも1羽で、すっくと水面に屹立している。カモよりははるかに大きい。白いサギと、グレー色のサギがいる。両者ともカモの群れから離れて立ち、カモのほうを見向きもしない。散歩中の私が通り過ぎる間、身動き一つしないことも多い。カモもサギを気にしている風はない。

 サギは毎日は来ない。2、3キロ離れたところにサギが群がっている大木があるので、たぶんそこを住み家にしているのだろう。

 3月はまだ寒いが、4月ごろになると、気温が上がってくる。カモよりも私のほうが、いつ彼らが飛び立って北へいくのかが気になり始める。

 カモは、日本などで越冬して、春になると多くは北極圏のツンドラ地帯(シベリア、ロシアなど)などで繁殖するため北上する。

 4月の中ごろになると、カモの数が少しずつ減り始める。20羽を切ることが多くなって、4月終わりごろには10羽を切る。

 今年もそうだった。4月終わりになると7羽だけになった。その7羽も毎日飛来してくるのではなくて、まったく来ない日があったりする。しかし、次の日にまた7羽揃っていたりもする。

 5月上旬になってカモはついに2羽だけになった。2羽が土手に寄り添ってうずくまっている。

 それが何日か続いた。一度泳いでいるのを見たが、1羽が子供なのか成長不足なのか、ちょっと小さい感じがする。親が子供が十分飛べるまで待っているのだろうか。

 2羽が来ない日があった。ああ、ついに飛び立ったのかと思ったが、次の日にはまた来ていた。

 ある日1羽だけが池で泳いでいた。そのとき、カモより小さい、ヒヨドリだろうか、1羽の鳥が左手から飛んできて、さっと水面をかすめて右上空に飛び立った。すごいスピードだった。それを見ていたカモはその鳥に釣られるように、素早い速さで水面から飛び立った。そして、その鳥のあとを追うように右上空に飛び立ち、そのまま空に消えていった。

 それをずっと見ていた私は、カモはその鳥を仲間と間違えて、あとを付いていったのだと思った。

そのころになると池の端から葦が伸び始める。葦は勢いのある植物で、どんどん広がろうとする。夏になると池の半分が緑に覆われるほどだ。

 池の水の温度もどんどん上がってくる。池面が泡立ってくる。表面が藻で覆われ始め、水がよどんでくる。

 5月の中旬になって、ついにカモは戻ってこなくなった。2、3日、いや、1週間待ってみたが、やっぱりカモはいなかった。

 水面にいくつもの二重丸ができる。カモがいなくなって、今まで静かにしていた外来魚らしき魚が活発に動き出しているのだ。15センチぐらいの口先のとがった魚だ。フナではない。ブラックバスでもない。

 カモはもう帰ってこないだろう。最後までいたカモの親子も無事に北へと飛び立ったのであろう。私もそろそろ諦めて、明日からは別の散歩コースを回るようにしよう。

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