99)ロータリーと自転車

我が住宅団地は某ローカル線のT駅につながっていて、団地からT駅へは自動車道路があり、行き止まりがロータリーになっている。10数年前までは都心に仕事に行く夫を送るために、朝早くから多くの奥さんが車を運転してそのロータリーまで行き、ロータリーの行き止まりで夫を車から降ろす光景が見られた。

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団地からは少し坂道になっていて、車では何でもないが、通学のために自転車で行く高校生や大学生には、その坂道がかなり苦しい。

 

久しぶりにロータリーを散歩してみた。朝6時ごろだったが、7,8人の散歩者に出会った。夫婦連れもいるし、男性だけ、女性だけもいる。犬の散歩をしている人もいた。左右の、一億円とも言われた家が建ったころと比べて、やや雑草が目立った。あのころは家がピカピカであったし、植栽も整っていて、整然としていた。今は、整然とはしているが、場所によっては雑草が長く伸びている。落ち葉が掃除されずに積み上がっているところもある。

人の生活が続いているのだから、きれいごとばかりではないだろう。

 

あのころは我が家の息子も、このロータリーを利用して高校に通っていた。

ある日の夕方、息子が困ったような顔をして家に帰ってきた。開口一番、

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「お母さん、ロータリーに止めておいた自転車がなくなってる」

 

と言った。ロータリーの行き止まりは自転者置き場にもなっていて、息子も毎朝そこに自転車を止めておく。無料の駐輪場で、よく自転車が盗まれるという噂があった。

私と息子は駐輪場へ急いだ。

 

「どこに置いたの」

「ここ」

 

私はもしやと思って、聞いた。 

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「自転車には鍵をかけておいたんでしょうね?」

 

息子は照れくさそうに、

 

「ううん、かけてない」

 

電車がすぐ来るので鍵をかける時間がなく、鍵をかけずに放っておいたという。

まあ、なんていうこと! 

 

「鍵かけなかったら、盗られるのは当たり前でしょう!」

 

私は息子を叱ったが、叱っても自転車は戻ってこない。仕方なく帰宅した。

しばらくは自転車を買ってやらなかった。自分が鍵をかけなかったんだから、罰として当分は自分で何とかしなさい!!

息子は次の日から、少し早く起きて、でも、いつも通りぎりぎりに家を出た。ロータリーまでテクテク歩いたのか走ったのかよく知らないが、自転車なしの期間がしばらく過ぎていった。

何か月かして自宅に一本の電話がかかってきた。

 

「〇〇さんですか? お宅の自転車がうちの畑に転がってますよ」

 

「自転車に電話番号と名前が書いてあったから電話してみたんです」ということであった。

 

その畑は、T駅から2キロほど向こうにあった。菓子箱を整え、電話をくれた人のお宅に伺った。

自転車は何日か前から置かれていたとのこと。自転車は泥で汚れていたが、他の部分はどこも痛んでいなかった。鍵は付いたままだった。

頭を何度も下げて、お礼を言って家に戻ってきた。

 

久しぶりにロータリーを散歩して、自転車紛失のことを思い出した。息子は今は就職して大阪に住んでいる。結婚もしている。

息子が高校生時代のことを思い出しながら、散歩の帰路についた。