84)住宅団地とスーパー

 私の住んでいる家は、大手のM不動産によって開発されたM住宅団地内にある。一戸建ての住宅戸数が約3000戸、人口が約5000人。道幅の広い、緑に恵まれた静かな団地である。

移り住んだ36年前には団地には小さなスーパーが一つあった。M不動産の話では間もなく大規模スーパーが団地の中央にできるという話であったが、大型スーパーができるまでには数年かかった。

数年後にできたEスーパーは生鮮食品から雑貨まで何でも揃う、住宅団地にとっては不足のない立派なものであった。たいていの住民がEスーパーを利用したと思う。売り出しの日などはレジに長い列が並ぶほどであった。

10数年続いたころ、「スーパーが撤退する」という噂が流れた。私などはこんなに流行っているのだから、嘘だろうと思っていた。しかし、撤退はあっという間に行われた。1か月前に閉店の貼り紙が出されて、あれよあれよという間に3日連続の最終売り出しがあり、それが終わると、店は完全に閉まった。

団地内にあったので、近いのが何よりであった。値段も手ごろであったし、我が家などはEスーパーを大いに活用した。子供が食べ盛りでもあったころなので、一回行くと優に1万円は使ってしまうほどだった。「我が家はEスーパーのお得意さんだよ」などと自負していたくらいだった。

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Eスーパーが撤退すると買い物に困った。団地内にはコンビニはあるが、コンビニでは生鮮食品は買えない。野菜や肉、魚などの生鮮食品を買いに行くには、歩いて20分かかる駅前のスーパーに行かなければならない。

車を持っている所帯がほとんどなので、買い物は車で済ませる家族も多い。車のない家族の中には自転車で駅前のスーパーに走る人もいる。しかし、年寄りや、車や自転車に乗らない人は買い物が不便になる。

我が家は車はあるが、私は最近運転をしなくなった。夫に声をかけて乗せてもらうのも面倒な場合があり、自分の運動のためと20分の距離を歩くことも多い。しかし、行きは良い良い帰りはこわいで、帰りは両手に荷物を持って、フーフー言いながら戻ってくることになる。

そのころから「買い物難民」という言葉が出始めていたが、まさしく我が住宅団地には、潜在的な人も含めて、「買い物難民」が大勢いる。

なぜ大手のM不動産は、ビッグ住宅開発を行っておきながら、そして、住宅売り出しのときには「もうすぐスーパーができます」と謳っておきながら、そしして、いったんは立派なスーパーは作っておきながら、スーパーの撤退を考えるのであろうか?住宅団地販売が完了してしまうと、彼らはほとんど説明をしない。黙って、ある日突然店を閉める。「スーパーの売り上げがもうひとつなので」という理由も、どこからか聞こえてきたこともあった。「えっ、あんなに客が入っていたのに」と私なんかは不思議に思うが、そう言われたら黙ってしまうよりほかない。

私の知人が奈良市に住んでいる。我が家がM住宅団地に引っ越してきたのとほぼ同時期に、彼女たちも奈良市でM不動産による住宅団地に引っ越した。やはり環境の良い、きれいで静かな住宅団地である。

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しかし、現在80歳近くになる彼女はスーパーがなくて困っているという。我がM住宅団地と同じく、彼女の団地でも最初はスーパーがあった。団地の人はそのスーパーで買い物をすることができた。しかし、10年もしたときに、M不動産はスーパーを撤退させてしまった。知人いわく、スーパーの売れ行きが良くないのでということらしい。

我が住宅団地と同じではないか。これはM不動産の最初からの計画ではないかと思わざるを得ない。これはM不動産だけでなく、もしかしたら他の不動産屋さんも同じなのではないか。住宅売り出しのときはスーパーを準備しておく。そして、しばらくはスーパーを開店させておく。住宅販売が完了してしばらくするとスーパーを撤退させてしまう。

きっと、次の住宅団地開発を目指して、次のところへ資金を投入するのであろう。

それにしてもあまり良いやり方とは言えない。不動産屋はもっと住民のことを考えるべきではないか。

不動屋さんにしても事情があるにちがいない。しかし、説明もなく、生活に必須のものを取り払うなど、大手がやるべきことではないと、今日もテクテク歩きながら、私は怒っている。