39)に続いて、外国人留学生の話し方の傾向について、特に間違い(エラー)しやすい点について取り上げる。39)は話し方に重点が置かれたがここでは2つの文法的な間違い(エラー)の傾向について述べる。
- 動詞の形
動詞には基本形(例:書く)の他に、可能形(書ける)、受身形(書かれる)、使役形(書かせる)などがある。
「ドアを開(あ)ける」の「あける」には、可能形(開(あ)けられる)、受身形(開(あ)けられる)の他に、他動性・自動性の対立もある。
動作を行う動作主に焦点を置いた他動詞「開(あ)ける」に対して、動作を受ける対象に焦点を置いた自動詞「ドアが開(あ)く」の「あく」がある。
このような動詞の変化と役割・意味は、語自体が似ていることもあって、学習者はいざ使用する段になると混同・混乱を起こしがちである。これはレベルが上級になってもなかなか直らない傾向である。テレビなどに出ている日本語の上手な外国人でもしばしば間違ったり、迷ったりしてしまう。
以下は間違い(エラー)の例である。( )内に訂正例が示してある。
例1:a.女性のほうはやっぱり結婚しても仕事を続きたい(→続けたい)人がたくさんいると思いますが、・・・
b.ちょっと女性の考え方を聞かせたい(→聞きたい)と思いますが、どうでしょうか。
c.楽しいというより、やっぱり、これから長く続ける(→続く)かどうかの問題です。
d.自分のこういう、なんか興味とか、なんか熱情とかもだんだん減らしちゃう(→なくなっちゃう)んじゃないですかと思います。
e.私が(→は)その売るのはけっこう才能があって、売った(→売れた)んですけど、
f.だんだん何ていうか、努力とかも少なくなってきて、仕事もうまく行けなくなる(→行かなくなる)から、・・・
- 「あまり」の使い方
日本語では「あまりおいしくない」とか「あまり大切じゃない」のように、「あまり」は「ない」などの否定とともに(否定と呼応して)用いられる。外国人に共通して見られるのが「あまり・・・ない」の結び付きがなかなかできないことである。
例1:a.このお菓子はあまりおいしい(→おいしくない)。
b.経済があまり発展している(→していない)国では、仕事選びではなく、仕事探しが問題になる。
例2:中国は、たぶん修士をとった人は、自分の就職進路に対してあまり不満(→あまり満足していない)とか、そういう考え方を持って、・・・
例1a、bはよく見られる間違い(エラー)である。学習者は「あまり」の中にすでに否定の意味が入っているのだからと解釈して、文末を呼応させないのであろう。上級レベルになっても、作文などで時々見られる間違いである。
例2は学生自身は「不満」だから否定が入っていると考えたのであろう。しかし、「不満」は「満足しない、満足していない」の意味ではあるが、日本語では「~ない」「~ません」「~じゃありません」の形にしないと否定形にはならない。
また、「あまり」は、「あまりに難しすぎる」「あまりにざびしくて泣いてしまった」の「あまりに」と混同して間違ってしまう場合もあるようだ。
内容的には「あまりに」は「あまりに難しすぎて、答えられない」「あまりにさびしくて我慢できなかった」のように否定的な意味合いを持つ場合が多いが、形としては基本的には、「あまり・・・否定形」「あまりに・・・肯定形」の形をとる。