235) 「★日本語文法ものがたり21★動詞た形」

           

 今日は動詞の「た形」に入ります。

 その前に、前回の宿題に触れておきます。前回の宿題は、次のab文の違いを考えることでした。

 

 1.a.お腹がいっぱいで、もう食べられない!

      b.お腹がいっぱいで、もう食べることができません。    

         

 2.a.恐れ入りますが、この先は入れません。

   b.恐れ入りますが、この先は入ることができません。

          

 

 1と2のabは、意味的には同じことを言っています。形の上でaとbを比べると、aのほうがカジュアル(ざっくばらん、普通体)で、bはフォーマル(丁寧、丁寧体)になっています。aがカジュアルであるということは、話し手が形式にあまりとらわれずに、自分の気持ちや感情を率直に述べています。一方、bは丁寧体を使って、また、やや硬い「~ことができません」を使って、相手に説明・解説をしているという意味合いが強くなります。

 2も1とだいたい同じですが、abとも丁寧体を使って、相手に丁寧に説明しています。しかし、aでは「入れない」、bでは「入ることができない」を使い、bのほうがより丁寧に、硬い言い方で、相手に説明・解説していると考えられます。

 

 では、今日のテーマ「動詞た形」に入りましょう。

 227)で「動詞て形」の「~てください」についてお話しました。今日勉強する「た形」は、「て」が「た」になっただけです。(例:「行く→行って→行った」「する→して→した」)

「た形」は過去を表しますが、過去として使われるだけでなく、次のような用法もあります。

 

1)~たことがある/あります

  例:私は富士山に登ったことがある/あります。

 

         

2)~たあとで

  例:ご飯を食べたあとで、この薬を飲んでください。

         

3)~たほうがいい/いいです

  例:おかしい(です)ね。もう一度チェックしたほうがいい(です)よ。

         

1)「動詞「た形」+ことがある」は「経験」を表します。過去にそのような経験があるかどうかを表します。日本語学習者は時々「~た」と「~たことがある」(例「浅草に行った」と「浅草に行ったことがある」、「納豆を食べた」と「納豆を食べたことがある」)はどう違うかを質問することがあります。「~た」は単に過去にそのことをしたかしないかを述べるのに対し、「~たことがある」は、そういう経験を持ったという、自分の経験を相手に伝えたいという気持ちが入ります。

否定は通常、「~ことない/ありません」になります。

 

 例:A:日本の包丁を使ったことがありますか。

   B:いいえ、まだ使ったことありません。

         

2)「動詞「た形」+あとで」

「動詞「た形」+あとで」では、2つほど問題があります。1つは、232)の「動詞辞書形」のところで「~前に」を紹介しましたが、「~あとで」でも同じような「過去・非過去」の問題が出てきます。「前に」の前では、その事柄がいつ起こったか/起こるかにかかわらず、必ず辞書形(非過去・食べる)が来ます。

 

 (1)毎朝ご飯を食べる前に、薬を飲む。

 (2)今朝ご飯を食べる前に、薬を飲んだ。

 

「~あとで」の場合も同じで、それがいつの事柄でも、「~た」が来ます。

 

 (3)毎朝ご飯を食べたあとで、薬を飲む。

 (4)今朝ご飯を食べたあとで、薬を飲んだ。

 

 もう一つ学習者が疑問に思うのは、「~てから」との違いです。日本語には「~(た)あとで」とよく似た表現に「~てから」があります。

 

 (5)ご飯を食べてから、薬を飲む/飲んだ。

 (6)ご飯を食べたあとで、薬を飲む/飲んだ。

 

では、問題です。(これは今回の宿題とします。)

 

次のような状況で、あなたは「~てから」を使いますか。「~たあとで」を使いますか。両方使えるのですが、どちらかと言えばという観点から考えてください。

 

状況1.おやつの時間です。子供がおやつをほしがっています。

 子供:お母さん。おやつ食べてもいい?

 母親:いいわよ。でも、手を(a.洗ってから b.手を洗ったあとで)ね。

 子供:はーい。

       

 

状況2.会社で。

 社員:あのー、よろしいですか。

 上司:何だい?

 社員:あの、今日仕事が(a.終わってから b.終わったあとで)、

    ちょっとお話が・・・。

 上司:ああ、いいよ。

         

 「~たあとで」と「~てから」は入れ替えが可能です。細かいニュアンスの違いについては、来月の最終火曜日に説明します。皆さんは、自分で考えてみてください。

 

3)「~たほうがいい」

人に何か助言をする時、「~たほうがいい」を使うことができます。例を見てください。

 

(1)<データの集計中>

 A:おかしいな。何回やっても、合計が合わないの。

 B:もう一度、最初から数えてみたほうがいいよ。

   どこかで間違っているかもしれないから。

 

(2)<会社で>

 A:どうしたの? 顔色が青いよ。

 B:ちょっと頭が痛くて。熱もあるみたい。

 A:それはよくないね。今日は早く帰ったほうがいいよ。

         

 「~たほうがいい」は比較というよりは、相手に対する助言を表します。そして、その事柄がいつのことであっても、「た形」が使われます。丁寧な助言になります。