47)外国人留学生の会話(6)余剰博士

ここ何年にもなるが、大学で博士号を取得した学生が、なかなか就職できないという現象が起こっている。大学院で専門を深めることによってその企業に貢献できるという反面、学歴が高すぎるため就職に向いていないという企業の捉え方もある。給料が高くなる、学生の専門に見合った仕事が提供できない、また、学歴が高いがゆえにプライドが高く、従業員として扱いにくいというマイナス面も浮かび上がってくる。そのため、結果として、博士号は取得したものの、就職口がないという現象が起こる。それが「余剰博士」と呼ばれるものである。

この会話では参加者は、韓国人のrと中国人のsの2人で、そこに担当教師(日本人)の「市」が加わる。2人とも上級の日本語力のある人たちであるが、sはまだ自分の考えを正確に、文法的に伝えられない面を持っている。

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市:日本では博士をとる人達がどんどん増えているんですけれど、卒業してから、就職ということになると、やはりなかなか難しいというのが現状なんですが。

皆さんの国ではどうですか。皆さんの周りを見て、友達とか先輩・後輩達が、博士をとったけれども、というような、そういう状況ありますか。  

r:わたくしの大学の同級生の中でも、博士を、博士号をとった人は結構いますけれど、その中で、なかなか、仕事、定職に就けなくて困っている人もいます。

市:で、そういう人達は、じゃ何を、現実的には何をしているんですか。

r:その人、そのような人のだいてい(→たいてい)は、自営業しよう(→起業しよう)としているんです。

自分が、博士、博士課程で研究したテーマについて、あのー、会社を作って、それを仕事にしようとして・・・

市:例えばもっと具体的な例を。

r:たとえば、私の友達の中では、博士号を、・・・

市:何の博士号になりますかね、それは。

r:それは材料工学の博士号になりますけど、それとったあとに、材料工学の実験によく使われている、ろうがありますけど、そのろうの設計とか、それの・・

市:ろうって何ですか。

r:furnace

市:あ、炉(ろ)

r:ろう(→ろ(炉))のことなんですけど、そのろう(→ろ(炉))の設計とか、正常の仕事、正常の事業を立ち上げようとしている人がいます。

市:ただそういう場合、予算とか資本とかいうものが必要になりますよね。それは。

r:それは、その事業に、事業を始めるのに必要な資金とかは、銀行に行って、それを借りて、始めようとしているんです。

市:sさんは、sさんの周りにとか、sさんの知っている中で、博士を出たけれども、仕事がないっていうような人はいますか。

s:仕事がないという状況とはちょっと違いますけど、あるは(→あるには)ある、ありますけど、

でも、ちょと(→ちょっと)そういう仕事は理想的な仕事ではないです。例えば、あの、経済の博士号とった人は(→が)結局は大学で教師をやったりとか、そういう普通の研究機関の仕事です。

ほんと自分は(→が)進んだ学問(→学問を)、社会では生かしている人が少ないと思います。

市:専門を生かしていない人達は多いですか。

s:結構多いと思います。やっぱり中国は博士号とった人はほとんど大学に入って、それから、大学の教師をしている人が多いです。

会社とか、特に外系(→外資系)の会社、日系企業とかアメリカの企業とか入る博士はわずかです。何かほんとに一部分の人に(→一部の人)しかいないです。

市:日本でも大学4年卒業して、このごろもう大学院に入るのが常識みたいになってきてるんですけれども、修士に入っても、修士卒業するときに就職から逃げているというようなところがあって、自分から就職活動を積極的にあまりしないで、そして、どうしていいかわからないから、そのまま博士に行くって人が確実に増えてるんですけど、どうですか。その、若者の現状について。

r:韓国でも確かに、はっきりした目的を持って博士課程に上がる人は少ないと思います。

やっぱり修士号をとったあと、これからどうしたらいいのかわからなくて、仕方なく博士課程に進む人が多いと思います。

s:中国は、たぶん修士をとった人は、自分の就職進路に対してあまり(→少し)不満とか、そういう考え方を持って(→持っていて)、たとえば、その面接の会社に対して、給料が少ないのでその会社行きたくないと思ってる人が多いですから、だから、結局みんな博士に進学しようと思って、博士のコースで勉強している人が多いです。

ほとんど博士までは(→博士まで)進学すれば、将来の就職はほとんどが学校とか政府機関のところ限られている状況が多いです。

また(→逆に)、企業とか、入るチャンスはほとんどないと思います。

市:そうすると、政府機関とか教職の仕事というのは限られているから、余剰博士になるのは当然ということですよね。

そして、この問題はほっておかなきゃいけないってことになるんですかね。

s:特に今中国では、政府機関や大学の福祉がいいですから、そういう目的、きゅりょうとか大学の給料とかとてもいいですから、あの、企業よりもっと多いです。

マンションとかオクションももらえる、そういう先生もいますから、その目的を目指して、わざわざ博士に進学する人が多いですから。

特に、中国の公務員は給料がとても高いですから。

そういう考え方から、そういう現状から考えれば、やっぱり博士に進学して、そういう政府機関で働くほうがいいと思う人が多いです。