これは、NHK放送の、新・教育論「生き抜く力を育てる」(2023/6/4)の一部を、2回に分けて紹介する。講演者は、教育者の高濱正伸さん。
高濱正伸さんは30年間、学習塾を中心に2万人の子を育ててきた。
30年前に予備校講師で生きていこうと思っていた時、そこで接した子供達に愕然とした。
自信がなくて、伏し目がちで、ぼそぼそしゃべって、ちゃんとしゃべれないみたいな子が集まっていた。
上司からは次のような説明を受けた。
「まだ見えてないけど、だんだん事件とか起きてくるんじゃないかな。
家に閉じこもって、朝晩逆転して、お父さんお母さんにぶら下がって、ゲームしたり、夜中にそっとコンビニに行く人とかいっぱいいて・・・。ほとんどが男子なんだけどね。」
そして、最後に、「高濱君、この子達を頼むわ。」と頼まれる。
「これだけ問題が起こっているのに、教育は何も変わっていないじゃないか。」
高濱さんは、これは学習塾がやるしかないだろうと考えて、それ以来ずっとやってきた。
高濱さんの目標は、「どんな時代になっても、食える子を育てたい」ということである。
この国には働けるのに、自分のやりたいことが見つけられない大人が大勢いる。なぜこんなに転職、転職と言うのか。そして、その人達は転職しても、「ここじゃない」と言ってまた転職を繰り返す。
この問題は、「自分の心を見極める」、「やり切る」ということができないまま、大人になった人が多いということを意味する。
上手くいっていない大人は、「夫婦がうまくいっていない」場合が多い。
結婚して、子供を産んで、もう恋じゃないという次の段階に行った時どうするか? 恋の時期は色々ごまかされていても、結婚生活というのは相手の正体がはっきり見える。そこで目の前の1人を幸せにできない大人が溢れている。言いたいことだけ言って、相手の気持ちが見えない。心が分からない大人が多い。
例えば、ある学習塾に入ろうという相談を妻が夫にしたとする。
夫は新聞を読みながら、目も離さず、「入ればいいじゃん。」とか、「やめたほうがいいんじゃない。まだ早いよ。」とか、結論だけ言うみたいなことを言う。
夫としては、質問されたことに答えたじゃないかと思っているようだが、妻側からするとイラ~っとする。
何がまずいかと言うと、夫は「理」(理論・理屈)で答えているからまずい。人類は脳の外側がメチャメチャ発達した。文明というものは発達すればするほど、「理」で解決しようとする。
社会の仕組みもこのように動こうとする。何かというと、「コンプライアンス、コンプライアンス(法律順守)」、「エビデンス、エビデンス(証拠)」、「データ的に確かなものでしょうか?」と言いたがる。
脳が発達すればするほどそうなるのだが、誰でも、原始的な、芯になるような感情の軸を持っているから、常に内側のモヤモヤ感みたいなものが中心にある。
つまり、夫は脳の外側の「理」で考えて、「質問には正しく答えました。何か文句ありますか?」と思う。
ところが、内側の感情を大切にする奥さんは、「そういうことじゃないんだよね。」といつまでも不満に思っている。