230)マスクと子供の脳の働き(1)

 マスクをするかしないかが、個人の判断に任されるようになって、1週間が過ぎた。

マスクをしなくてもいいようになって、一番うれしかったのは何といっても子供達だろう。テレビ中継では、保育園・幼稚園の園児達が飛び切りの笑顔を見せていた。

 

     

 京都大学大学院教育学研究科の明和政子(みょうわまさこ)さんは、京都大学霊長類研究所チンパンジーの心を研究、比較認知発達科学という分野を開拓された。人と他の霊長類を胎児の時から研究することで、人間らしい心が、いつ、どのように生まれてくるのかについて研究しておられる。

今回と次回は、「マスクと子供の脳の発達」について、2回に分けて明和さんのお話をお伝えする。(これはコロナが最盛期の時期2022年9月のラジオ・インタビューをもとにしています。)

 

 明和さんは、「多くの人がマスクをしているのは、子供にとってどうなのか」という質問に対して、次のように答えている。

 

「色々な問題があります。私達大人はマスクをしていても、目でコミュニケーションできるから、問題ないと思ってしまいます。しかし、大人の脳と子供の脳は全く違う。

 言い換えると、子供の脳は大人の脳のミニチュア版ではない。「目でコミュニケーションができるから大丈夫。」というのは大人の発想でしかありません。

 子供の脳の発達には、環境から影響を受けて、特に変容しやすい時期というのがあります。

 最も重要なのが乳幼児期。従って、乳幼児期にどんな環境で育つかということが大変重要なのです。」

         

 明和さんは、大脳皮質にある視覚野、聴覚野について次のように述べている。

 

         

 

 「視覚野は目に入った情報を処理し、聴覚野は耳に入った情報を処理するところです。特に視覚野、聴覚野という場所は、生後数か月から7~8歳ぐらいまで環境の影響を受けます。

赤ちゃんは自分が経験するものを、パパママといっしょにやっていくことで身に付けていきます。

 幼児期に影響を受けやすいのが、前頭前野です。「おでこ」のうしろに位置する、人だけが高度に獲得してきた脳の場所で、この前頭前野がグーッと発達してくるのが生後4年目ぐらいです。                

          

 

 この時期から脳発達の感受性期が始まっていくのですが、子供達のイヤイヤ期(1~3歳)から少しずつ卒業を始めていく。これが前頭前野の発達に深くかかわっています。

 前頭前野というのは、自分の持っている心と相手の心は別のもの、独立したものだということを次第に理解して、自分の心ではなく、相手がどんなふうに考えているかを、相手の視点に立ってイメージすることができます。

 子供がこのおもちゃを独り占めしたいと思っているとします。でも、4歳ぐらいから前頭前野がグーッと発達してくると、このおもちゃを独り占めしていたら、他のお友達もこれを使いたいかもしれない、泣いちゃうかもしれない、という相手の立場に立ったイメージを持つことができてきす。

          

 

 すると、自分がこのおもちゃを独り占めしていてはいけないから、貸してあげるよというふうな、相手の立場に立った行動が少しずつ出てくる。お兄ちゃん、お姉ちゃんになってくる。大人の多くの方がこのことを実感されると思います。

          

 明和さんは、マスクと子供については次のように語った。

 

 子供にとっては、色んな人々の表情を見ることで、「その人が今何を考えているのかな、どんなことを考えているのかなあ。」ということを経験していくことが大事です。(つづく)