231)マスクと子供の脳の働き(2)

明和さんは、マスクと子供については次のように語った。

 

         

 子供にとっては、色んな人々の表情を見ることで、「その人が今何を考えているのかな、どんなことを考えているのかなあ。」ということを経験していくことが大事です。

 幼稚園や保育園からどんな声が来ているかというと、よく耳にするのは、例えば保育園、幼稚園の先生が、子供達の表情が乏しくなった気がする、あるいは、言葉の獲得がゆっくりになった気がするという声です。

 先生がにっこりと微笑みかけても、先生はマスクをしておられるので、子供の反応が弱い。そうすると、心のやり取りが、なかなか難しくなっているということです。

 

         

 それは子供同士の意思の疎通にも関係しています。

何かいざこざが起こった時に、相手の表情を見て、相手が泣いていると、「ああ、悪いことしたな。」とか、「あ、ごめんね。」というやりとりがそこから始まるんですけど、お互いマクをしていると、相手がどんな気持ちをしているかが分かりづらい。

そうすると、いざこざが長く続いたり、コミュニケーションが上手く行かないってことも、多々あるようですね。

 

         

 

 口元が見えるというのは、本当に大事で、私達はパンデミック(広範囲に及ぶ流行病)が始まって、ようやく、このことに、大人ですら初めて気づいたと思います。

 中には、マスクをしていても、目でコミュニケーションできるから大丈夫だとおっしゃる方もいるんですが、一般の見方というのは、大人目線での理解でしかない。

子供というのは、豊かな表情を見て、マネして、そうした経験を重ねていくことによって、ようやく目だけで相手の心を類推することができる存在だ、ということを忘れてはいけません。

 

「家庭でできることは?」という質問に対して明和さんは次のように答えている。

 

 マスクを外しておられる家庭が一般的だと思うので、私は特に心配は要らないと思いますが、もし可能であればパンデミック以前にもまして、意識的に子供に豊かな表情を見せてあげてください。接触型のコミュニケーションをしてあげてください。

 家庭であるからこそ、これをしていただくということがますます重要になってきます。

          

 テレビから得られる情報というのは、視覚情報、聴覚情報だけに限られてしまいます。つまり、身体接触がない。

 しかし、身体接触というのは子供の脳の中に、いわゆる心地いい感覚を湧き立たせる重要なものになるわけです。ですから、テレビを見せる場合も、親はお子さんを抱っこして、「楽しいね、面白いね。」と言いながら、身体接触をしながら、テレビ等を見ていただくといった努力も有効であると思います。

そして、それを共有することが大事で、親も子供も、心地いい感覚を共有することで育っていく。

         

 絵本を見ながら、いっしょに、「楽しいね、面白いね。」というふうに親が声をかけて、そして、身体接触をする。

これは子供にとって絶好の機会なのです。コミュニケーションはいいものだなあと実感できる大切な時間です。これは家庭の外ではなかなか得られないものなのです。

      

 最後に、明和さんはLOVEホルモンとも言われるオキシトシンについて、次のように述べておられる。

 

 私達哺乳類は他者と身体接触すると、オキシトシンという内分泌ホルモンが絡んできて、体の中に沸き立つような、そういう仕組みになっています。このオキシトシンはLOVEホルモンとも言われますが、ものすごく心地いい感覚を湧き立たせるホルモンなんです。これは身体接触を通じて起こるものだと知られています。

         


 赤ちゃんを抱っこしていると、赤ちゃんだけでなく、大人の側にもオキシトシンが湧き立つ。

 親子、両方の体がずいぶん身体接触に関わっていて、いい方向に向かっている。これが、「共感」に関わっている。

 

 学校でオンラインの授業やっているし、いわゆる非接触のコミュニケーションというものが、この数年で一定化しました。で、この流れはパンデミックが収まっても、留まることはないと思われます。

 私達の日常は非接触のコミュニケーションが日常となって行くでしょう。その時に私が大変気になるのは、環境の影響をものすごく受けて育つ子供達が、これからどんなふうに脳を発達させていくことになるのか、という点ですね。

 

 例えば、非接触のコミュニケーションが分かりやすいと思うんですが、そこでの私達のコミュニケーションというのは、体を使わない。例えば、人の痛みが分かるという言葉がありますが、私達が相手の痛みが、例えば指を切って血を流している人を見たら、自分の体も痛いように感じるというのは、それまでの経験の中で、相手との身体接触があるからなんです。 

         

 私達は他人の痛みは自分の痛みだということが共感して分かる。しかし、生まれたときから、こうした体の接触というものがどんどんどんどん少なくなっていけば、そうした環境の中で育つ子供達が、こうした「共感」という、心と脳の働きというものを、今生きている私達と同じように持って生きていけるかということは未知数だと思います。

 

 「共感」のないコミュニケーションは大人にとっては便利ですが、子供にとってはどうでしょうか? 

 ものすごく変容しやすい子供達にとっては、利便化した環境は使っていい部分と、そうしてはいけない部分がある。

便利なことと、生物として必要な身体接触を守ることの両方を、しっかりとバランスをとって考えていくことが、これからの時代ますます必要になると思います。