197)アグネス・チャンさん

 

           

 私達にとってなつかしい、あの天使の笑顔と、『ひなげしの花』の歌声の持ち主は、今年で67歳になった。

 

ひなげしの花  アグネス・チャン

 

丘の上 ひなげしの花で

うらなうのあの人の心

今日もひとり

・・・・・・・

      

 

 彼女のNHKでの対談の中には、彼女の性格を表す話がいくつかあった。

 

        

 

 まず、彼女は楽天家である。

 

「この服どうかしら?」と、心配気に言う友達に彼女は言う。         

        

「今日が一番若いんだから。明日は似合わないかもしれないから。誰にも遠慮することはない。自由に生きてみようよ」

 

「引退したから、お荷物になっているんじゃないかしら」と心配する友達に、彼女は言う。

 

「とんでもない。生きているのが消費者ですから。旅行したり買い物したり、友達とお茶を飲んだり、これがすでに貢献なんですよ。それで経済が回っているのよ。」

          

「私達が楽しく生きている姿が、若者にとってはいい手本なのよ。私達がしょんぼりしていると、歳を重ねたくないなあと思うけど。早く歳を重ねたいなあ、おばちゃん達、なんでこんなに楽しそうなんだと、そういうふうであれば・・・」

 

 彼女の話を聞いていると、こちらまで元気が出る。

 

「ああ、そうか。私達は消費者なんだ。それだけで社会に貢献しているのか?」

 

  人生について難しく考えなくても、普通に生活しているだけで世の中に役立っている。そう思うだけでも心が軽くなってくる。

 

 アグネス・チャンは、また、創造家でもある。

 

 彼女には3人の子供がいるが、子供が小さかったころ、彼女が国連のユニセフの仕事で何日間か家を空けなければならないことがあった。電話もメールも届かないところへ行くのだ。

その間、子供達がさびしくならないように、どうするか?

        

 彼女は大きな袋をたくさん作って、その一つずつの中に、積み木などのおもちゃや、絵本などを入れ、手紙を添えた。

 3人の子供達が、毎日ひとつずつ袋を開け、手紙を読み、返事を書き、おもちゃで遊び、絵本を読むことができた。そのおかげで子供達は母親のいない寂しさを感じることがなかった。

 

 彼女はユニセフではつらい仕事も経験した。

         

 タイへ行ったとき、売春が行われている場所を見学した。東北などの貧困地帯から来た(買われてきた)少女が多い。少女は一日に何回も男性に性を売る。ほとんど100%の少女が性病にかかる。性病にかかって発病したら、彼女たちは仕事をやめさせられる。そして、山奥かどこかに捨てられる。

 

 彼女は後年乳がんにかかった。初期の段階ではあったが、手術や入院を余儀なくされた。そこで、彼女は病気の人の苦しみや辛さを目の当たりにし、病人や高齢者・子供、弱い人々への理解を深めていく。

         

 彼女には96歳の母が施設にいる。アグネスは、今では年の半分ぐらいは香港に帰っている。そして、悔いのないように、兄弟で手分けして介護している。

 いっしょに過ごすことが一番の孝行だと思っている。お母さんは何を考えているか分からなくなっている。会話もできなくなっている。その時は歌うんですと彼女は言う。小さい時、母が歌ってくれた歌を耳元で歌うという。

 母親が手拍子したり、口ずさんだりするのを見ると、もしかして通じてるのかなと思って、私も慰められると、アグネスは語る。

 

        

 

 可愛いだけであったアイドルは、途中でスタンフォード大学の博士号を取得し、国連の仕事をし、視野を広め、人間性を深め、今も変わらず燦然と輝いている。