154)子供が作る弁当の日

    

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 小学生にお弁当を作らせたいと考えていた校長先生がいる。香川県出身の竹内和男氏。竹内氏が「子供が作る弁当の日」を提案してから、もう20数年になる。

12歳だった教え子の小学生が30歳を越え、母親・父親になっている。その母親・父親たちが「食事作りが楽しい」と言いながら子育てを楽しんでいると言う。

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 竹内校長が「弁当の日」を思いついたきっかけは、20年前、自らの目で給食風景を見たときだった。子供達の中に、つまらなそうに、また、おいしくなさそうに食べている子供がいる。校長の頭の中にはそのとき、いろいろな考えが浮かんだが、最終的には、 

「食事の向こう側に働いている人の姿が見えないためだ」と思った。そして、「もし、実際に子供達がお弁当作りに関わっていれば、もっと関心や感謝を持って給食に接することができるはずだ」と考えた。

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 ここから校長の奮闘が始まる。

 食材を買うところからさせたいと思うが、子供達は買い物ができない。お菓子は買えるが、野菜や肉は買えない。キャベツとレタスの違いが分からない。レンコンが山芋になる。

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 調理員、給食主任、家庭科先生に了解は得られたが、保護者からは了解は得られない。

 理由は、「包丁持たせていない」「ガス台を触らせていない」「マッチが擦れない」「朝起きられない」などなど。

 

 校長は対策として3つのルールを作った。それは、「子供だけで作る、親は手伝わない」「5,6年生だけに月1回やらせる」、そして、指の切断やぼや騒ぎがこわいという心配に対しては、もし事故が起こったときは「校長1人に責任を置く」ということであった。

 この最後の「校長1人に責任を置く」というところで、保護者や関係者はゴーサインを出した。

 

 最初の1回目の朝は教室は大騒ぎだったようだ。初めて弁当を作ってきた子供達が、弁当箱を出して見せる。見せっこする。子供達がこんなに喜んでいる。難色を見せていた先生も安心したようだ。

 最初のころは、1品しか作れない子供も多かった。「卵だけ焼いた」「唐揚げは親に作ってもらった」「自分は全部はできない」という感じだった。

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 しかし、子供達の間に変化が起きる。あの子が作ったのなら、自分も作ろう。

 そして、いい意味で子供達の競争が始まる。

 事故が起こった場合は、責任は校長にしか行かない。事故が起きないようにするにはどうするか、先生方が授業中に熱心になる。

 

 2回目は1品ごとではなくて、子供達が自分で全部作ったかどうかが問題になった。子供達の間に育ち合いができてくる。これこそが、先生の仕事を超えたところに育つ教育であった。

 

 良いことづくめの子供による弁当作りだが、子供達と親の感想はどうだったのか。

 

<子供達>親への感謝。自分で弁当を作ると、今まで作ってくれていたお母さんの大変さ分かる。

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<親たち

親子の会話が増えた。子供が分からないことを親に尋ねる。今までコミュニケーションが少なくてさびしかったのが、弁当作りを通して話し合いが増えていった。

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 成績や身体能力だけでなく、弁当作りは子供の別の側面を育てる。弁当の見せっこを通して、ほめっこをしたり、作った子をほめることができる。

また、弁当作りで余ったおかずを家族が食べる。家族が喜ぶ。玉子焼きの上手な子が、家で玉子焼き係になったりする。

 

校長は言う。

「食生活がすさんでくると、子供の生活がすさんでくる。それは、以前からも思っていたが、弁当作りを通して、食生活がいかに家族に喜びをもたらすかが分かる」

 

「親が子供に、『胃袋は満たしてやっている』『ひもじい思いはさせていない』と言い放つことが多いが、実はそうではない。実際は子供に、食事の、ひいては家庭の、本当の喜びをもたらしてはいない。子供はそのことがよく分かっている。

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 今の社会では、「家事は面倒なこと、いやなこと」という見方があって、それが「子育てはいやなこと」に通じていく。

 

 現在2400の小中学校で子供による弁当作りが行われている。次は子供時代に弁当作りで育った1人の親が竹内校長に話した言葉である。

 

「先生お久しぶりです。毎日弁当作ってます。楽しいです。子供に2歳3歳から弁当作りをやらせてます。おかずのことで話ができるし、子供の能力が育てやすくなる。子供が自立しやすいように思います。」