221)目にうろこの「小説の書き方」

 書くことが好きな私は、一度きちんと小説の書き方を勉強したいと思っていた。若いころに一度カルチャーセンターの小説を書くクラスに入ったことがある。

 

         

 

 講師は名前のある作家だったが、クラスに入ってみて驚いた。

先生は年配の女性で、前の席にどーんと座っている。実際に授業をするのは、弟子の3人の女性だった。

弟子の3人は、真面目そうな30~40代で、彼女たちは準備された原稿を読み上げていった。内容は、小説の具体的な書き方についてなのだが、彼女たちはただただ、原稿を読むだけであった。

 先生は冒頭に挨拶めいたことを二言三言おっしゃっただけで、あとは何も言わない。弟子たちも、先生に遠慮しながら、文を読み上げていくという感じだった。

 余りのことにがっかりして、1、2回参加しただけで、やめてしまった。そして、そのあとどんな小説の書き方教室の案内が来ても、参加することはなかった。

 

    

 

 あれから何十年かが経った。私の「小説が書けるようになったらいいなあ」という気持ちは、ずっと続いていた。ある時、インターネットで「〇〇作家大学」なる広告が目に止まった。

 

 「誰でも小説が書けるはずである。書けないのは書き方が分かっていないからだ」という宣伝文句につられて、インターネットの案内を丁寧に読んだ。

 週1回講義があり、合計23回の講義で30万円かかる。講義には、放送作家や小説家、脚本家、編集者、大学教授、ジャーナリストなどが名を連ねている。

「小説は必ず上手くなる!」「創作脳の鍛え方」洒脱な文章術」「文学賞に応募しよう」など、講義内容も多彩で、魅力的である。

〇月〇日に渋谷の××で説明会があるという。

 

     

 

 人間は何かに挑戦したいと思っていても、なかなか飛び込めないものである。しかし、何かの拍子に、特に深い理由や動機があるわけではないのに、いとも簡単に乗っかってしまうことがある。

 私もそれほど情熱があったわけではないが、説明会ぐらい行ってもいいかという気持ちになっていた。

 会場は渋谷駅に近い、貸し会議室の一室であった。係員が5人ぐらいいて、資料を配ったり、出欠を取ったりしている。きちんとした、いい感じのサラリーマン風の若い男性達である。

 私のような参加者は13、4人はいただろうか。

          

 初めに「〇〇作家大学」の校長(若い女性小説家)が挨拶をされた。彼女の説明は迫力があり、説得力があった。

彼女は固い挨拶はそこそこにして、最初からどんどん小説の書き方の話に入っていった。

        

 

 彼女の話は具体的であった。

彼女が言ったことは、「まずは、自分について書きなさい。自分の好きなことや、好きなものについて書きなさい。」であった。

「難しい抽象的なことではなく、具体的に自分の好きなこと、好きな人、好きな物から書くことを始めなさい。」

 

 彼女のレジュメの最初のページを写させていただこう。

 

*あくまで自分を書く・・・。

*まずは自分の物語を、次に、歴史上の人物や架空の人物を設定する。

*既存の誰でも知っている物語のパターンに当てはめてみる。バリエーション、世界観を広げるために。

*肉付けは、雑談から拾う。自分の知っていることだけ書くと、厚みのない作品になる。自分だけの発想だと、領域が狭くなる。

 

 次に女校長先生が私達に提案したことは、話をつなげるゲームであった。誰かが1つの文を言う。例えば「あそこに女の人が立っている」であったら、次の人はそれを受けて、ストーリーを展開させていく。

 

「あの女の人はもう1時間ぐらいあそこに立っている。」

             

「誰かを待っているのだろうか?」

「年のころは、30歳代だろうか。若い女性である。」

「なかなかの美人である。顔には少し憂いがある。」

「そのとき、1人の男が現れた。」

 

           

 

などなどと、どんどん続けていくのである。

 

 私は説明会には出たものの、結局は、小説クラスには参加しなかった。週1回とはいえ、渋谷まで出かけるのは遠すぎたこともあるし、やっぱり何といっても30万円が惜しかった。

        

 

 しかし、女校長先生からパンチのある「書くことのヒント」をもらえたのは、有難かった。

 まずは自分のことを書く、自分の好きなことについて書く。自分自身はそういう初歩的なこともしていなかったと反省する。

 「そうか。書くことは自分の周りのこと、自分の好きなことから取りかかる。それが上手く行けば、次の書くことにつながっていきやすくなるか!」

 

 今回、2時間以上かけて渋谷まで行った値打ちがあったと思った。