201)ちょっといい話

とてもいい話を聞いたので、紹介します。

 

いい話「その1」

 ある福祉施設での話。

         

 1人の発達障害の男の子がいた。その子は皆で散歩に行ったりするとき、郵便ポストがあると、そこからなかなか動こうとしない。赤い郵便ポストを触ったりして動かないので、付き添いの介護士や職員は困っていた。

  

       

 また、その子は、おもちゃ屋さんの中に入ったりした時、ミニカーが並んでいると、またまた動こうとしなかった。特に、消防車が好きであった。

 そのとき、介護実習に来ていた青年がその様子を見ていた。

 赤いポストの前や、赤い消防車の前から動こうとしない男の子は、また、好き嫌いが激しかった。その日の昼ご飯に肉じゃがが出た。案の定、男の子は肉じゃがを食べようとしない。

 実習生の青年は、「この男の子は赤い色が好きなのにちがいない。肉じゃがに赤い色のケチャップをかけたら、食べるかもしれない」と考えた。 

                        

         

 青年は肉じゃがの上にそっと赤色のケチャップをのせてみた。すると、男の子は赤い色に惹かれてか、肉じゃがを食べ始めた。

        

 実習生は勝手にそのようなことをしたということで、介護士の先生からは注意を受けたようであるが、子どもの行動をよく見ていたこと、子どもへの、固定観念にとらわれない解決法は、介護士の先生方を感心させた。

 1人の若者の自由な発想が一つのアイデアを生んだとも言える。

 

いい話「その2①」

         

 最近ティー先生という保育士さんが人気である。36歳の見るからに感じの良い、にこやかな青年である。彼の保育への考え方は、従来のものとかなり違っているようだ。

 

 これは、なかなか親の言うことを聞かない、元気(すぎる)な3歳の女の子の話である。

         

 女の子は人参が大嫌い。絶対食べようとしない。すぐ「きらい!」と言って放り出してしまう。相談を受けたティー先生は、そのとき面倒をみていたお父さんに助言する。(その家庭では、母親と父親が交代で娘の面倒をみていた。)

     

 女の子の前に出てきたのは、小さい小さい、コメ粒ほどのチョー小さい人参の煮物だった。女の子はお皿にポツンとのっている、米粒ほどの極小の人参をまじまじと見た。そして、興味を惹かれてか、すぐ口に入れた。

         

 次にお父さんは、米粒よりは大きいが、豆粒ほどの大きさに切った、しかし、まだまだ小さい人参を娘に差し出した。娘はやはりその小さい、小さい人参に興味を惹かれて手を出し、すぐに食べてしまった。

 お父さんは根気よく根気よく、人参を少しずつ少しずつ大きくしていった。そして、最後には、いつも与えている一口大の大きさにまで来た。おそるおそる娘にお皿を差し出したら、娘は見事に一口大の人参に手を出して、食べてしまった。

         

 子供の嫌いなものを小さく、小さく切ることは、たぶん多くのママやパパがしていることだろう。ここでユニークだったのは、人参が、あまりにも小さな欠片(かけら)から始まったことだ。子供はその小ささに意表を突かれてしまったにちがいない。

 

いい話「その2②」

         

 その女の子(いい話「その2①」と同じ子供)は、親に歯磨きの仕上げをされるのを嫌がった。毎晩、娘に歯磨き粉の付いた歯ブラシを渡し、娘は遊び半分に口の中でぐちゅぐちゅやっているが、最後は親が出て、娘の歯ブラシで仕上げをする。これは「仕上げ歯ブラシ」と呼ばれるもので、多くの家庭ではやっているようだが、子どもが逃げてしまうので、親は一苦労する。

 ティ―先生は次のように助言した。 

         

 まず、お父さん(その時はお父さんの番だった)が「今からこの歯を磨くよ」と言って、娘の前で自分の歯の1本を磨き始める。次に娘に「じゃ、〇〇ちゃんも同じ歯を磨いてごらん」と言う。娘に娘自身の歯を磨かせるのである。お父さんがさっき磨いたあたりの歯だが、今度は自分の歯を磨かせるのである。

         

 そして次に、お父さんは「次はこの歯だよ」と言って、となりの歯を磨き始める。娘に同じあたりの、自分の歯を磨かせる。

 こうやって、歯磨きを進めていく。歯は、お父さんとまったく同じ歯でなくてもよい。

 ここで驚くことは、3歳の子が自分から自分の歯を磨き出すことである。

 

 たぶんそれは不十分な磨き方で、歯も父親と同じ歯ではないかもしれない。しかし、子どもは嫌がらずに、お父さんの真似をして磨こうとする。

 

 ティー先生のやり方を見ているうちに思った。女の子がいそいそと人参を食べたり、自分で歯を磨こうとし始める。ティー先生のやり方は、「人参を食べられる」るとか「歯磨きができる」とか、もちろんそれも大事だが、それ以上に、子供の「やる気」を育てようとしているのにちがいない。

 子供の興味を育て、それをやる気に結び付け、そして、実際に自分から行動するところへ持って行こうとしておられるにいちがいない。

 ティー先生の人気の秘密はここにあるし、こうしたやり方が教育の真の姿と言えるものなのであろう。