200)★ #日本語文法 ものがたり12★「話し言葉と書き言葉」①

          

 今月のテーマに入る前に、先月の「~の~」の宿題を見てみましょう。

宿題は、「「a.おじさんのヒゲ b.ヒゲのおじさん」「a.上皇后のご病気 b.ご病気の上皇后」「a.子ども達の学校 b.学校の子ども達」の違いを説明してください」でした。いかがでしたか? 説明は次のようになります。

       

 説明:「a.おじさんのヒゲ」はヒゲに注目が当たり、「おじさんが所有している(生やしている)ヒゲ」の意味になります。「b.ヒゲのおじさん」は、「おじさん」に注目が行き、どんなおじさんかの説明として、「ヒゲだらけの/ヒゲを生やしたおじさん」の意味になります。

「a.上皇后のご病気」は「ご病気」が注目され、「上皇后が持っている(かかっている)ご病気」、また、「b.ご病気の上皇后」では「上皇后」に注目が行き、「ご病気にかかっておられる上皇后」になります。同様に、a.「子ども達の学校」は「子ども達が通っている学校」、b.「学校の子ども達」は「学校にいる(所属している)子ども達」の意味になります。

 

         

 さて、今日は日本語における「話し言葉」と「書き言葉」についてお話しします。

世界の多くの言語がそうであるように、日本語にも「話し言葉」と「書き言葉」があります。「話し言葉」は日常生活の会話などで使われ、「書き言葉」は文章を書く時に使われる言葉です。手紙やメールで使われる日本語は、書いたものであるという点では「書き言葉」ですが、相手に向かって述べているという点では「話し言葉的な書き言葉」と言えます。LINEなどは、より会話的であるという点で「話し言葉」と言えるでしょう。次の(1)は「書き言葉」、(2)は「話し言葉」の例です。

            

(1)吾輩は猫である

(2)私は猫だ。/ぼくは猫だよ。

                        

          

 

 外国人が日本語を学ぶ時、「話し言葉」であるか「書き言葉」であるかの区別はなかなか難しいです。アメリカの日本文学者・日本学者であった故ドナルド・キーン氏は、日本滞在が長く(のちに日本国籍を取られた)、日本語も堪能でしたが、日本の古典文学の専門家であったためか、最後まで書き言葉的な日本語を使って、会話をされていました。

 日本語の授業では、多くの場合、「話し言葉」の指導から始まります。まず、日常生活に困らないように会話から勉強して、だんだん書いたり、読んだりを学んでいきます。

 しかし、この「話し言葉」もなかなか複雑で、色んな形が出てきます。

 

 次の会話(3)~(5)を見てください。

      

(3)A:今度の土曜日、お時間おありでしょうか?

    B:ええ、ありますけど、何でしょうか?

       A:コンサートのチケットがあるんですが、いらっしゃいませんか。

       B:まいります。どこであるんでしょうか?

       A:ノバホールです。

       B:何時からでしょうか?

    A:夜7時に始まります。

 

(4)A:今度の土曜日、あいていますか?

         B:ええ、あいていますよ。何ですか?

      A:コンサートのチケットがあるんです。いっしょに行きませんか。

      B:わ~、行きます行きます。どこであるんですか?

      A:ノバホールですよ。

      B:何時からですか?

        A:夜7時に始まります。

 

(5)A:今度の土曜日、あいている?

    B:うん、あいてるよ。何?

      A:コンサートのチケットがあるんだ。いっしょに行かない?

      B:わ~、行く行く。どこであるの?

      A:ノバホールだよ。

      B:何時から?

      A:夜7時に始まるよ。

 

他にも同じ内容で、もっと多くの会話が存在しますが、3つに絞ってお見せしました。

(3)(4)は丁寧な話し方をしていますね。(5)は少し違って、友達同士、家族同士のような、丁寧でない会話をしていますね。

 

  「話し言葉」にはいくつかの文体(文の様式)のレベルがあって、(3)(4)のようなものを「丁寧体」、(5)のようなものを「普通体」と呼びます。日本人は、お互いの立場や地位、親しさの程度、男女、年齢、会話がどこで行われているかの違いなどによって、文体(丁寧体・普通体など)を使い分けているのです。

 

 外国人は日本語のクラスでは、「話し言葉」の「丁寧体」から勉強を始めます。「普通体」は使い方が難しく、「私は食べた」「私は知らない」「帰るか?」「知っているか?」などの普通体をそのまま相手に使うと失礼になることがあります。失礼になりにくい「食べました」「知りません」「帰りますか?」「知っていますか?」などの丁寧体から勉強します。また、授業が進むにつれて、「帰りますか?」「知っていますか?」の代わりに、「お帰りになりますか?」「ご存知ですか?」「まいります」などの敬語を学ぶことになります。

 

   外国人からは、時々こんな質問(不満)が出ます。

 

「先生、教室では丁寧体(~です・~ます)を習うけど、一歩外へ出ると、日本人は普通体ばかり話している。」

          

    これはもっともな話で、日本語のテキストも、早い段階から普通体を取り入れる努力を始めています。しかし、何も分からない初歩の段階の外国人学習者が、年長者や上の人に、また、場所をわきまえずに、「何をしてるの?」「これはぼくのだよ」「おもしろくない」「私は行かない」「わからないよ」などと言うのを避けるために、丁寧体から導入することは仕方ないのかもしれません。

 

   では、今週の宿題です。次の(6)の会話は普通体で話されています。これを丁寧体の会話にしてください。Aは女性、Bは男性とします。

 

         

 

(6)A:きのうはご馳走さま。

  B:いやいや。どうだった?

     A:すごくおいしかった。

   B:うん。それに、いい店だったね。

  A:そうね。私、半分払うよ。

  B:いいよ。ぼくが誘ったんだから。

  A:悪かったね。今度私が誘うね。

 

<答え:丁寧体の例>

(6)’  A:きのうはご馳走さまでした。

   B:                    

  A:                    

     B:                    

   A:                    

        B:                    

   A: