次の文は外国人学習者が作った文です。どこかおかしいように感じられますが、皆さんはどうですか? どこがおかしいか考えてください。ABグループとも、助詞(格助詞)がおかしいようです。
Aグループ
① スーパーに野菜と肉を買いました。
② あした会社に会いましょう。
③ こんなところに食べてはいけません。
Bグループ
④ あそこで小さい猫がいます。
⑤ はさみは箱の中であるよ。
⑥ 私は北海道で住んでいます。
まずAグループから見ていきましょう。
①は「スーパーに」ではなくて、「スーパーで」が正しいですね。②は「会社に」ではなく、「会社で」、③は「こんなところに」ではなく、「こんなところで」が正しいです。
学習者は「スーパー」「会社」「こんなところ」というのが「場所」を表していることは分かっているのですが、「場所」を表す格助詞には「で」と「に」があって、「で」とすべきところを「に」としています。
次はBグループです。
④は「あそこで」ではなく「あそこに」、⑤は「箱の中で」ではなく「箱の中に」、⑥は「北海道で」ではなく「北海道に」になります。
格助詞(「に」「で」「は」「が」など)は、本当に小さい「かけら、カケラ、欠片、英語で a piece」のようなものです。特に自分の国語にそのようなものがない場合、外国人は助詞の存在になかなか気がつかないし、用法が分かりにくくなります。
では、場所を表す時、いつ「に」を使い、いつ「で」を使うのでしょうか?
基本的には、「場所」のうしろに来る述語(動詞)が「動き・動作」を表す場合は、「で」が来ます。「食べる、飲む、見る、聞く、勉強する、泳ぐ、旅行する、ダンスする」などの動きを表す動詞です。
一方、「存在・位置」を表す動詞「ある、いる、住む、泊(とま)る、寝る」などが続く場合は、「に」を使います。
①~③の述語(動詞)は「買う、会う、食べる」で、すべて動作・動きを表します。④~⑥の述語は「いる、ある、住む」で「存在・位置」を表します。
ABの正しい文は次のようになります。
①’ スーパーで野菜と肉を買いました。
②' あした会社で会いましょう。
③’ こんなところで食べてはいけません。
④’ あそこに小さい猫がいます。
⑤’ はさみは箱の中にあるよ。
⑥’ 私は北海道に住んでいます。
外国人に対する初級の授業では、場所を表す「に」と「で」については、これ以上、深くは勉強しません。しかし、本当のことを言うと、場所を表す「に」と「で」で、区別できない場合もあるのです。
私の恩師はそれを「言語の連続性」と言いました。言語には、黒と白というようにスパッと分けられない場合が多いということです。
例えば、次のような場合、( )の中には「に」を入れますか?「で」を入れますが?
⑦ 私は夫と北海道( )住んでいます。
⑧ 私は夫と北海道( )暮らしています。
⑨ 私は夫と北海道( )生活しています。
⑩ 私は夫と北海道( )過ごしています。
日本語には「住む」と同じ内容を表す動詞がいくつかありますね。⑧~⑩に出ている「暮らす」「生活する」「過ごす」は、もちろん細かい意味合いやニュアンスは異なりますが、基本的には「住む」ことを表しています。
「住む(住んでいる)」は「存在・位置」を表す動詞で、「場所+に」を使います。では、⑧~⑩はどうでしょうか。
⑪ 私は夫と北海道に住んでいます。
⑫ 私は夫と北海道で暮らしています。
⑬ 私は夫と北海道で生活しています。
⑭ 私は夫と北海道で過ごしています。
(⑫の「暮らす」は「夫と北海道に暮らしています」のように、「に」を使うこともあるかもしれませんが、通常は「で」を使います。)
どうして「住む」は「~に住む」なのに、「暮らす」「生活する」「過ごす」は「~で暮らす・生活する・過ごす」なのでしょうか?
理由は私もよく分かりません。ただ言えることは、「住む」に対して「暮らす、生活する、過ごす」は、「住む」と同じ意味でも、住む内容、つまり生活の個々の内容や活動に重点を置いているからだと思われます。
「生活の内容・活動」とは「動き・動作」そのものですね。(「に」が書き言葉的、「で」が話し言葉的というとらえ方もあります。)
「泊る」「寝る」も同じことが言えます。
⑮a.私は名古屋に泊るつもりです。
b.私は名古屋で泊るつもりです。
⑯a.いつもこのベッドに寝ています。
b.いつもこのベッドで寝ています。
「住む」と同じように、「泊る」「寝る」を、全体的、抽象的、静的にとらえている場合は「に」、動きとして捉える場合は「で」になりやすくなります。
皆さんは、タクシーに乗って、目的地付近に着いた時、次のどちらを使いますか?「に」ですか?「で」ですか?
⑰a.あ、すみません。ここに止めてください。
b.あ、すみません。ここで止めてください。
解答と説明は次回にします。楽しみに待っていてくださいね。