朝、何気なくラジオを聞いていたら、有島武郎(1878-1923)の『一房のぶどう』の朗読が流れてきた。5分ほどの短い話であったが、その内容にいたく感動した。
有島武郎には『小さき者へ』『生まれいづる悩み』『或る女』『惜しみなく愛は奪う』などの著作があるが、『一房のぶどう』は児童書でもあり、心の洗われる物語である。絵本にもなっている。
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主人公は、絵を描くことが好きな少年である。
同級生のジムは外国製の絵の具を持っていた。
主人公は通学時に通る海と港の絵を描いていたが、そのために藍色(あいいろ)と洋紅色(ようこうしょく)の2色がどうしてもほしかった。
ある日の休憩時間にジムの机の中から、その2色の絵の具を盗んでしまう。
盗んだことはすぐばれて、少年は、級友の何人かに伴われて、担任の女先生の部屋に連れて行かれてしまう。主人公はその先生がずっと前から大好きであった。
級友からの話を聞いた先生は、主人公に尋ねる。
「それは本当ですか?」
主人公は下を向いて、泣き出してしまう。
チャイムが鳴った。先生は授業のため教室へ行かなければならない。
そのとき、先生は主人公に言った。
「あなたは授業に出なくてもいいです。ここにいてください。」
そして、先生は窓のそばに行き、身を乗り出して一房のぶどうを切り取り、少年の膝の上に置いた。
少年は、後悔でぶどうを食べるどころではなかった。
しばらく泣き続けて、そのまま眠ってしまった。
授業の終わった女先生は、少年を抱きしめて、言った。
「今日はもう帰っていいですよ。あしたは必ず学校に来てください。」
そう言いながら、そのぶどうを少年のかばんの中にそっと入れた。
少年は家に帰り、今日のことを誰にも言わず、一人でぶどうを食べた。
次の日の朝、少年は学校へ行きたくなかったが、先生に言われたこともあり、登校した。少年は元気がなかった。
ところが、学校の門の前には、少年に絵の具を盗まれたジムが立っていた。
ジムはいつも通り、「おはよう」と言って笑顔を見せ、少年に手を差し伸べた。
ジムと少年はその足で女先生の部屋へ行った。二人の足音を聞きつけた先生は、ドアを開けて二人を迎え入れた。
先生はジムに言った。
「ジム、あなたはいい子、よく私の言ったことがわかってくれましたね。」
そして、少年に向かって、言った。
「ジムはもうあなたから謝ってもらわなくってもいいと言っています。二人は今からいいお友達になれば、それでいいんです。二人とも上手に握手をなさい。」
先生はまた窓から一房のぶどうを取り、それをはさみで半分に分けて、ジムと少年に渡した。
少年は、そのときからは前より少しいい子になり、少しはにかみ屋でなくなった。
何年かして、女先生は学校からいなくなった。
少年は今でもあの先生がいたらなあと思う。
秋になるとぶどうの房は紫色に色づいて美しく粉をふくけれども、それを受けた大理石のような白い美しい手はどこにも見つからない。
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あらすじをまとめると、以上のようである。一言も説教らしいことを言わない、淡々とした先生の振る舞いに感動した。
先生は主人公の少年の性格をよく見抜いていたのだろう。先生は少年を一言も責めなかった。
そして、また、被害者のジムの心をも育てることに成功している。
ああいう先生こそが、真の教育者なのだろう。人を育てるということはこういうことなのだと思った。