私は長い間外国人に日本語を教えてきました。日本語の文法、会話、漢字、読みもの、リスニング(聞き方)などなど。論文らしきものもいくつか発表しましたが、それらは理屈っぽい解説が中心であり、日本語教育と関係のない一般の人々には、楽しんで読んでもらえないものが多かったと言えます。
一般の人々が読んで、楽しく分かりやすい日本語の解説書を書いてみたいというのが私の長年の夢でした。(「109女友達の一人」にもそのことを書いています。)
このブログで月に1、2度、「やさしい日本語文法解説」を試みてみたいと思います。それは、話しかけるように分かりやすい、おもしろい説明(書)のことであり、絵本のような夢のある解説(書)のことです。
題して「日本語文法ものがたり」。
1回目は「は」と「が」を取り上げます。
皆さんはバス停でバスを待っていて、バスがようやく姿を現したとき、何と言いますか?
「あ、バスが来た!」ですか、「あ、バスは来た!」ですか?
長年英語に接しているのに、やっぱり分からないとき、何と言いますか?
「やっぱり英語が難しい」ですか、「やっぱり英語は難しい」ですか?
「は」と「が」はどちらを使ってもいいようですが、やっぱり使い方がありそうですね。
では、次のクイズ(問題)をやってみてください。下線の部分に気をつけてやってください。
1.あなたは人の前で自己紹介をしなければなりません。あなたならどちらを使いますか?
a.私がN社の田中です。初めまして、よろしくお願いします。
b.私はN社の田中です。初めまして、よろしくお願いします。
そうですね。bですね。もし、aのように「私が・・・」と言うと、聞いている人はどんな感じを受けそうですか? 「この人」ではなく、「あの人」でもなく、「私が」というように、自分を特に取り出して(強調して)いる感じがしますね。自己紹介するときは、もっと謙虚に自分について説明する必要がありますね。
(「が」①:「~が」を使うと、複数の中から1つを取り出している感じがする。)
2.昔話「桃太郎」の始まりです。aとbどちらが自然であると感じますか?
a.あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
b.あるところにおじいさんとおばあさんは住んでいました。
そうですね。aですね。会話や物語などで、人やものが初めて登場する場合は、基本的には「~は」ではなく、「~が」を使います。「~は」を使うと、すでに知っている人やもの(「そのおじいさん、そのおばあさん」)の感じがしますね。(が②:何か新しい人やものが登場するときは、「~が」を使う。)
3.次は2の文の続きです。abどちらが自然でしょうか?
あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
a.おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きます。
b.おじいさんが山へ芝刈りに、おばあさんが川へ洗濯に行きます。
どちらでもOKですか? やはりaのほうが自然ですね。2で「おじいさん」「おばあさん」が初めて登場しました。3ではその、すでに出てきた2人について説明を加えています。このように「すでに出てきた人やものに対しては、普通は「~は」を使います。(は①:既出のものを説明するときは、「~は」を使う。)
はい、今日はここまでです。
では、宿題です。次の歌詞は、イタリア人アダモの「雪が降る」です。アダモの渋い歌声が胸に響く名曲ですが、タイトルは「雪が降る」なのに、歌い出し始めは「雪は降る」です。
この曲を聞いて、「は」と「が」の違いは何だろうと思った方も多いと聞いています。私もその一人でした。
まず、アダモが歌っている曲の歌詞(1番だけ)を見てください。特に「は」と「が」がどこにあるかを見つけながら見てください。そして、「~が」から来る感じと、「~は」から来る感じにどんな違いを感じるか考えてみてください。
「雪が降る」
雪は降る あなたは来ない
雪は降る 重い心に
むなしい夢 白い涙
鳥は遊ぶ 夜は更ける
あなたは来ない いくら呼んでも
白い雪が ただ降るばかり
ラ ラララ・・・ ム ムム・・・
タイトルと最後のところだけが「~が」(「雪が」)になっていて、あとはすべて「~は」(「雪は」「あなたは」「鳥は」「夜は」)になっています。