前回は過去「(雨が)降った、寒かった」と、非過去「(雨が)降る、寒い」、継続「(雨が)降っている」について勉強しました。
日本語では、「(雨が)降った」や「(きのうは)寒かった」のように、「~た」が付いていると、過去になるのが基本です。ところが、過去ではないのに「~た」が付く場合があります。
今回は、そんな過去とは関係のない「~た」について見てみましょう。
上司のAさんと部下のBさんが話しています。
(1) A:おなかがすいたなあ。
B:そうですね。私はのどがかわきました。
ちょっと休みましょうか?
A:そうだね。そうしよう。
(1)の会話で、Aさんが「おなかがすいた」と過去「~た」を使っています。しかし、Aさんがそう言っている時は「今」、会話をしている「今」、なのです。
Bさんは、「のどがかわいた」と言いました。しかし、Bさんは、過去の時ではなく、「今」のどがかわいているのです。
(2)A: ああ、疲れた。
B:疲れましたね。ちょっと休みましょうか?
A:いや、もう少しあとで。
(2)の会話の「疲れた」も、(1)の「おなかがすいた」「のどがかわいた」と同じです。2人が疲れたのは、今なのです。でも、「疲れた」と「~た」を使っています。
次は友達同士の会話です。
(3) A:ハックショーン!
B:どうしたの? 風邪をひいたの?
A:うん、風邪をひいたらしい。
B:近寄らないでね。うつると困るから。
(3)では、「風邪をひいた」も過去ではなく、今の状態を表しています。
では、これらの「~た」は過去でないとしたら、何を表しているのでしょうか?
(1)~(3)の「~た」は、過去に何か(おなかがすく、のどがかわく、疲れる等)が起こって、その状態が続いているという「現在の状態」を表しています。
また、次のように、話し手の気持ちや感情を表していると、考えることもできるでしょう。
(4)部下:部長、司会の田中君が休みです。
部長:ええっ、それは困ったなあ。
部長は「困った」と「~た」を使っています。でも、実際困っているのは「今」なのです。「~た」を使って、部長は自分の率直な感情を表しています。
次の形容詞「よかった」「残念だった」も同じです。
(5)A:息子が司法試験に受かったんです。
B:それはよかったですね。
(6)A:息子さんの司法試験は?
B:いやあ、だめだったですよ。
B:それは残念でしたね。
「よかった」は、「い形容詞 いい/よい」の過去形です。「残念でした」「残念だった」は「な形容詞 残念だ」の過去形です。
もう一つ、「~た」が過去ではなく、別の意味合いを表す場合を紹介しておきます。次の会話をご覧ください。
(7)A:私の真珠のイヤリング、知らない?
B:知らない。
A:あった、あった。こんなところにあった。
B:よかったね。
探しているものを見つけたとき、私達は「ある、ある」よりも、「あった、あった」を使うことが多いのはなぜでしょうか?
それは「~た」に話し手の気持ちや感情を表す働きがあるからです。「~た」が単に過去を表すのではなく、現在の話し手の気持ち・感情(ここでは「うれしい、よかった」)を率直に表すからです。
バス停で、なかなか来ないバスが来た時、私達は次のように言うでしょう。
(8)a.来た、来た。バスが来た。
これも「バスが来た」という喜びを表していると考えられます。
はい、では、今回の宿題です。
宿題1
風邪をひいている人に向かって、あなたは助言したいと思っています。あなたは次のabのどちらを使いますか? どちらのほうが話し手の気持ちがこもっていると思いますか。
(9)A:風邪を引いたの?
B:ええ。
A:a.薬を飲むほうがいいですよ。
b.薬を飲んだほうがいいですよ。
宿題2 はっきり覚えていなかったり、記憶に自信がない時、あなたは次のabのどちらを使いますか? abはどちらも使えますが、どのようなニュアンスの違いを感じますか。
(10)a.きょうは図書館が休みですね?
b.きょうは図書館が休みでしたね?