150)人と話すということ

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   真夏になって私の散歩も夕方になった。15〜20分程度のウォーキングだが、ほとんどの場合は誰にも会わず、仮に知っている人に会っても会釈するぐらいである。ところが、きのうは3人の人と、立ち話ではあったが、何分間かおしゃべりすることができた。

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 人としゃべると、心が軽くなる。そして、なぜか心が元気になる。

  知り合いの奥さんは、引っ越してきた当時、誰とも話す機会がなく、さびしい思いをしたと言っていた。「間違い電話でもいいから、かかってきてほしいと思った」と当時を振り返っていたことがあった。

 

 きのう最初に会ったのはプール帰りのNさんだつた。今までにも散歩途中会うことはあったが、おしゃべりしたことはなかった。ところがきのうはなぜか、私の口から、

「こんにちは。プールのお帰りですか?」という言葉が出てきた。

 

 プールに通っていたころの話やコーチが元気なこと、彼女が大腸がんにかかったことなど、10分位の立ち話だったが、話が弾んだ。

 

「すぐ近くなんだから、またプールに戻ってきてよね」

「ありがとう。皆さんによろしく」

 

 そう言い合いながら、別れた。

 しばらく歩くと、奥さんが庭の手入れをしていた。最近瀟洒な家に建て替えて、庭も西洋風にモダンな形にしている。私はいつも庭を覗いてしまうが、ラベンダーをはじめそこに咲く花々はずべて紫かブルー系である。色が統一されているので、庭全体が調和がとれていて美しい。いつも「きれいな庭だなあ」と思っていた。

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  ふだんは庭には誰もいないので、一方的に見てしまうばかりだが、今日は奥さんが草取りをしていた。ちょっと小太りの普通のおばさんだ。一度は通り過ぎたが、自分自身が何を思ったのか、戻って奥さんに話しかけた。

 

「いつもきれいにしていらっしゃいますね」

 奥さんはびっくりしたように「いえ、いえ」と言った。

 

「お花の色をブルーに統一しておられるのですね。」

 奥さんはしばらくして、「ええ、ブルーが好きなものですから」と言った。

 

 私は「いつもお庭を楽しませていただいています」と言って、感謝の気持ちを伝えた。

奥さんは突然の私の話しかけに戸惑いながら、でも、うれしそうに笑顔を見せてくれた。

 ただそれだけの会話だった。

 

 散歩の終着点は公園である。公園ではいつも白猫を探す。

 「いた、いた・・・」。

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 入り口近くの生垣に、見知らぬおばさんといっしょに白猫がいた。おばさんは持って来たエサを猫に食べさせているところだった。

 おばさんは何か悪いことをしているように、こそこそと振舞っている。なぜなら、公園では野良犬や野良猫にエサをやることはご法度だからだ。

 

 「私もたまにしかここには来ないんですよ」と、おばさんは弁解がましく言った。

私は猫にエサをやりたいおばさんの気持ちはよく分かるし、あえて注意する気持ちはなかった。私はおばさんに明るく話しかけた。

 

「おいしそうに食べてますね。」

「ええ・・・」

「近所で飼ってるんでしょうかね?」

 

 おばさんは、私がとがめる意図がないことが分かると、しゃべり始めた。

 

「飼ってるんじゃないけど、ご近所の方がエサをやってるみたいですよ。」

「いつも毛並みがきれいですね。まっ白で・・・。」と私。

「これ以上大きくなれないみたい。けっこう痩せてますよ。」とおばさん。

 

 白猫はエサを食べ終わると、不意に方向転換をして水飲み場のほうに行ってしまった。おばさんは立ち上がって猫のあとを追いかけた。白猫は水道の蛇口の前で待っている。おばさんは急いで蛇口をひねり、水量を加減してやった。白猫はおいしそうに水を飲んでいた。その姿は私のブログの「122公園の白い猫」そのままである。

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 白猫は親切なおばさんたちの世話で、こうやって餌をもらい、水を飲ませてもらっているのだ。まあ、どうでもいいが、私達おばさん連中は、白猫に家来のように扱われているのだ。

 

 年をとって家の中にいることが多くなると、人に会う機会が減る。下手をすると、誰とも話さない日も起こる。人と、それがお店の人でもいいし、宅配の人でもいい、少しでもおしゃべりする時間があると、心が明るくなるのはなぜだろう。気持ちだけでなく、体まで軽くなるような気がする。

 ある心理学者が「人間は非常にディペンデント(依存型の)生き物である」と言っていたが、そのために、私たち人間は、誰かとおしゃべりせずには生きていけないということなのであろうか?

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