19)非常勤講師のあり方について

   私は名古屋に13年滞在し、そのほとんどの部分を非常勤日本語講師として過ごした。私立大学、国立大学、AOTSなどにお世話になったが、非常勤講師という立場について考える期間でもあった。

時代はどんどん変わり、非常勤講師のあり方も変化してきていると思う。ここで述べることは、あくまで、私自身の40年余の日本語教師時代に留学生センターで見て、考えてきたことでしかない。

   非常勤講師に対する雇用者側の態度、考え方は、大きく二つに分けられると思う。

 一つは、非常勤講師の仕事は授業のコマの担当(時に)であって、担当の授業に対して全責任を負ってください、というものである。

極端な言い方をすれば、授業の前後には何の拘束も義務もない、共同で教材を作ることなどしなくても良い、授業後さっさと帰っていただいて結構、しかし、学生から不満の出ない良い授業をしてくださいというものだ。

居残りなどの拘束がないから、楽と言えば楽であるが、その代わり学生から文句が出たら責任をとらなければならない。その点では非常に厳しいものであると言える。

 もう一方は、もちろん責任をもって良い授業をしてくださいという点は変わらないが、留学生センターの授業が何人かの先生で担当しているという特殊性のためであろうが、専任と非常勤が共同して授業を作り上げるという色彩の濃いものだ。ある面では、仮に非常勤講師に授業でのミスがあっても、専任がそれをカバーすることもできる。

またそこでは、専任と非常勤が共同して授業を作り上げるために、非常勤が授業以外に教材作成にかかわったり、打ち合わせや話し合いに出ることも必要になる場合がある。

 この二つのあり方は、どちらが良いということではない。世間一般の非常勤講師というというとらえ方は、むしろ前者であるべきかもしれない。

しかし、このことは留学生センターでの日本語教育に、非常勤講師がどう関わるかという問題にもつながっていくと考えられる。

 大学を例にとると、非常勤講師が留学生センターほど多い学部や学科はない。多くの留学生センターでは、非常勤講師の数が専任より多く、授業は非常勤なしには遂行できない、かなりの部分を非常勤に頼っているという現実がある。

私がお世話になった大学(特に国立大学の多く)では、専任も非常勤もいっしょになって、教材(教科書)作りを行ったところが多かった。

その仕事のために授業後居残りをしなければならないこともあったし、ミーティングがあれば、授業のない日でも出ていかなければならないこともあった。仕事を家に持ち帰ることもよくあった。

 非常勤講師が授業以外に教材作成等に関わることに対して賛否両論があると思う。

雇う側の意見・希望・方針と、雇われる側(つまり非常勤講師)の意見・希望から考えなければならない問題であるが、そのころの私は、授業だけではなく教材作成にも関わりたいと思っていたし、関わることができたことを良かったと思っている。私の周りにもそう希望する非常勤講師の先生は多かったと記憶している。

 非常勤として依頼された担当の授業は、もちろんそれ自体大変な仕事であるが、ルーティーン作業的な部分もある。また、授業経験で培われたアイデアや工夫、知識などもどんどん貯まってくる。授業以外にクリエイティブなことをしたい(たとえ、それに対して手当てがなくても)と思っている非常勤の先生も多いのではないかと思う。

 私自身は、非常勤の先生のパワーをうまく結集させることも日本語教育の発展の一つの課題ではないかと思うのですが、みなさんはどうお考えになるだろうか。