243)戦争インタビュー2

 前回の「戦争平和インタビュー1」の続きです。

 岡本さん家族が平和に暮らしていたフィリピンのダバオでも、アメリカ軍の襲撃が始まった。岡本さん一家は森の中を逃げまどい、12人いた家族は、1人、2人と亡くなっていく。岡本家3女しずさんの話は続く。

 

       

しず:明るいところで小屋におったけど、危ないねということで、またジャングルの深いところに行こう言うて、そこへ行って、そこでまた父が小屋を作って。

 そういうことがあってから、父が「様子見てくる」って言うて、出ていって、それが3日ぐらい続けとった。

 

「今日も行ってくるな。」

 

 それは、アメリカ兵の倉庫で皆いろいろ盗んできてたみたいね。それをどこで聞いてきたか知らん。行ったら殺されるって母は言うたのに、行っていつも手ぶらで帰ってきてた。3回目に行った時に、薄暗くなっても父が帰ってこないから、心配になって私が小屋から外に出て、「お父さん遅いね」言うてたら、ぽっかり木の間から出てきた。顔が真っ青になっている。

 

       

 

 「お父さんどうしたの」って言うたら、頭が痛いって言って、足を囲炉裏のほうに向けてぱっと寝たんよね。私がお粥を炊いて「お父さんできたよ」言うて、足を叩いても起きない。叩いても起きないから、顔見たらすっとわかったんよ、死んだ人見てきてるから。

 ほら、かすかに薄目開けて、「お母さん、お父さん目開けてるけど起きんよ」言うたら、「えーっ」言うて、お母さん寝てたの飛び起きて、動かしてみたら、「これ死んでるわ」って言うて、そのまま死んでて、あとからきみ子言う妹がちょっと下痢してたから、起きてこないから見に行ったら、妹もいっしょに死んでた。

 

こうやって、母、3男の7人になる。

 

アナ:岡本さんと三男の洋一さんだけは座っていられる状態だった?

しず:母は寝込んでるし、弟も妹も寝込んでるし、もう困ったなあと思って、食べる物も何もないから、ほら、朝から晩までジャングルの中、出ていかれんから、ジャングルの中でずーと座って、食べるものも何にもない。

 そしたら鉄砲の音がしたんやね。何日かしたらパーンて鉄砲の音がした。日本の兵隊さんかと思って母が「呼んできなさい」って言うたら、3人の軍属のおじさん達が座ってたから、「お母さんが呼んでるー」言うたら、1人来てくれて、そしたら、母が「撃ち殺してくれ」言うて、「撃ち殺してください、お願いします」言うて頼んだ。

 

          

 

 おじさんは、「もうそんなことはようせん」言うて、帰っていったけど、私追いかけていって「おじさん殺さんとってね、おじさん殺さんとってね」言うたら、「よしよし」言うて、別れて帰ってきた。しばらくしたら、私がいつもおんぶしてた妹が死んで・・・。

アナ:岡本さんになついていた6女のえみ子さんが亡くなられた。

しず:その山小屋の横にちょうどこのぐらいの穴があったんや。ほんで、それを埋めなさい言うから、寝かしといて土を被せないといかんから、なかなかそれができなくて。

 空が真っ暗になったので、スコールが降ってくると思って、「こら、いかん」と思って、顔だけ残して。

 雨がざぁーっと来たから、小屋のすぐ横やったから、見てた水がだんだん溜まってくるから「お母さん、お水が溜まっていくよ。」

お母さん涙流してたけど。そうしたら、2日ぐらいしたら、赤ん坊が死んだ。かおるが死んだ言うの。

アナ:一番下の弟、かおるさん、まだ赤ん坊でしたから。

しず:4か月。死んだから、お父さんのところへ連れて行ってこい言うて、「えー」と思たけど、おんぶしてお父さんのところに寝かしてきた。

 

        

 

 母に背負わされて、ジャングルの中入ってったら、もう怖くて、きょろきょろして、おんぶしてるから、急いでいってお父さんの横に寝かしといて。見たら、カブトムシがいっぱい、お父さんの顔に。

 お父さんが怖いんじゃなくて、虫が、カブトムシみたいな真っ黒いのがそれが怖かった。

        

 それで戻ってきて、母がうわごとを言い始めたから、うわごとが止まったた時に、顔見たら死んでたからね。

アナ:母雪乃さんが亡くなって、兄弟4人になってしまわれるのですね。

しず:そいで、叔父さんのとこに急いで谷を渡って「お母さんが死んだ」言うたら、叔父さん来てくれて。それで、叔父さん達のところに行こう言うて、一人ずつおんぶしたら、叔父さんが小声で、「明日は、お姉さんと弟さんを連れていけんから、置いていくから」言うてね。

 「朝出ていくよ」言うて、「二人だけで行こう、連れていけんから、限界だからもう置いて行こう」言うて、お母さんに、元気な者だけでも日本に連れて帰ってくれ言うて頼まれたから、お姉さんと弟さんはもう歩けんし、連れていけんから言うて」

アナ:次女と、3男のとおるさんだけは置いて行く、で、岡本さんと次男の洋一さんだけ?

しず:そう、そんで、朝早く姉が「連れて行って、どこ行くの、連れて行って」って呼んでたわ。年上のおじさんが「すぐ連れに来るから」って言いなさい。

 こんなジャングルで、絶対よう来んと思うて、黙ってた。ジャングルの中を連れて行かれてたら、「うわー」って泣いてた。「連れて行って、どこ行くの、連れて行って、しずちゃんどこ行くの、連れて行って」ってね、わー、言うて泣いてた。大きな声で泣いてた。

 

 もう歩ける状態ではなかった。次女のみよこさんも、3男のとおるさんも、岡本さんと洋一さんと軍属の男性と収容所を目指す。

 

 収容所行ったら、叔父さん達と別になって、バケツに水入れたの。

 足洗わなあかん言うて、足をあろうたら、すっと顔見て「あら、しずちゃんじゃないの? 遅かったわ。お姉さん、きのう死んだわー。」アメリカに連れていかれたんじゃなくて、1人行方不明になっとった長女のさよこさんが、「きのう死んだわ、遅かったねー。」言うて。足洗って、弟とワーって泣いてたら、「泣いたらあかん、この人も、お父さんもお母さんも目の前で殺されたんだから、泣いたらいかん」。

 収容所行ったら、皆テントの中に荷物を置いて、頭と頭をぶつけあって寝る。石ゴロゴロ痛いけんど、洋いっちゃんは長く生きてられなかったけんど。

 トイレ走り出したからね。トイレは行ったらなかなか出てこない、栄養失調で下痢したら、絶対助からない。「下痢しとったんやろ。どうした」言うたら、「お腹が痛い」言うて、私にもたれて座ってけど、前を通った人が「洋一さん死んでるんじゃないの?」「えーっつ」て見たら、私にもたれかかったまま死んでた。

ほんでも、ちゃんときれいにして埋葬してくれたから。姉もそこで手術で死んでるから。まあ、寂しくないかと思って。

アナ:岡本さん、そこで一人になってしまう。

しず:そうです。

アナ:どんなこと覚えてますか。

しず:何にも。考える余裕がなかったと思う。どんどん外は騒がしくなって、皆船に乗って帰るということは聞いてたけど。

 最後にトラックに乗った時も、「あんたたちが最後だよ」って聞かされた。兵隊さんと病人だけ。

 島を眺めて、「静かやねー、お父さん、お母さんに「さよなら」言いなさい。」と言われて。皆泣きましたよ。みんな泣き声で「さよなら」言うて、ヤシの実の茶色になったのが、ぽかぽか浮いてる。ヤシの実の歌を歌って。

 「遠き島より流れ来る ヤシの実一つ」(透明なきれいな声で歌う)

 

       

 

アナ:しずさんは、20年ほど前からそのころのこと書き始めていますが、戦争の記憶を残そうと思ったのはなぜか?

しず:戦争がなかったら、平和で暮らしてたのに。どうして戦争が始まったのかいつもそれを思う。何もかも無茶苦茶やね。いつもそう思うね。

 家族はバタバタバタバタ死ぬのに、全然涙も出ない。泣きもしなかったのが不思議でならん。最初に爆撃で死んだ妹の時だけ泣いた。あとは全然。何か知らん、平気になったみたいね。

 もう何てことも言えない、バタバタ人が死んだって涙も出ない。もう当たり前のようになってしまってね。

 母親が死んだときも平気だったの。泣きもせんし。妹も弟もバタバタ収容所で亡くなった時も涙も出ない。鬼になってしまって。

 戦争さえなかったら、本当に何も苦労がなかったから。幸せやったですねー。争いごととかやめてほしいと思って。みんな仲良くしてほしいなあと思って。

アナ:亡くなった家族から託された平和の願いって、何だと思います。

しず:平和の願いね。私のようになってほしくない。家族のことは頭から離れません。もう77年なるけどね。一日も、頭から抜いたことない。戦争はもう、しないでほしい。(終わり)

 

     

 

 まだ大人になっていない時に、家族が戦争で、また、飢えや病気、怪我で亡くなっていくのを見つめながら生きてきた少女のことを思うと、戦争は繰り返してはいけないと痛切に思う。