233) おめでとう!役所広司さん

 第76回カンヌ国際映画祭で、日・独ドラマ映画「パーフェクトデイズ」に主演した役所広司さん(67)が男優賞を受賞した。

 

         

 

 役所広司さんは長崎県諫早市生まれ。東京千代田区役所に就職のあと、仲代達也さんの「無名塾」に就職した。その後、NHK大河ドラマ徳川家康」の信長役で人気を集め、Shall we dance?や「うなぎ」などで国際的俳優になった。

 

 これはNHKラジオ深夜便で放送された、役所広司さんの新人時代や役者人生についてインタビューの一部である。

(アナウンサーは「ア」、役所さんは「役」で示す。)

 

ア:無名塾に入ってからはどうでしたか、なかなか厳しい?

役:向こうは教える気はないですよね。興味を持ってもらわないと、「はい次」って言われるような世界ですから、それは厳しかったですね。僕は怠け者でしたからね。よく怒られてましたね。

      

ア:何が怒られた?

役:まず、入塾式に遅刻したんです。仲代さんに次に会った時には、「みんなが時間通りに来るんだったら、おまえは1時間前、2時間前に来ていなさい。」って言われて。それで、撮影の時など時間より早く行かなければ落ち着かない体質になって・・・。

ア:今日は30分ぐらい早くいらしてましたね。

役:最初のカツで、有難いことだと思ってます。「時間」と「挨拶できること」、それと「先輩を立てること」は、耳にタコができるくらい言われましたね。

 

        

 

ア:演じることについて教わったことは?

役:勇気ですかね。勇気。そもそも人前で何かをすることは恥ずかしいから、そこで失敗することも恥ずかしかったりするんですが、仲代さんも役者っていうのは「恥かき商売」だっておっしゃってたけども。

「もういい、恥をかいてもいい、何でもいい。」 一生懸命飛び込むっていう・・・。

ア:ご自分にとって大きな節目になった作品は?

役:俳優としては、必死にセリフを覚えてしゃべる、必死だったのから。もっと自由にやっていいのだなあと思ったのは、読売テレビ鶴橋康夫さん(テレビディレクター)がいらっしゃって、その方、ドラマの時に、カメラは1台なんですけど、芝居は何度もアングルとサイズを変えて撮るんですよ。自分が映ってなくても芝居は維持しなければいけないし、大竹(しのぶ)さんのドラマで恋人役やったんですけども、今ダメだったなあと思ってもチャンスがある。別アングルで、次、頑張ればいい。

     

 

その繰り返しでやっていって、1回で終わるのがカメラのすべてだと思うんですけど、何回も撮っていると、だんだんだんだん、どれを使われるかもわからないし。そこで次にはチャンスがある。次は背中だけど、ここで前に失敗したものをうまくやればいいやとか、意外とカメラを意識しなくても済むなあと思いました。

普通はカメラがここにあるのに、ないものとしての芝居をしなきゃいけないのに、だんだんだんだん自由になっていくんですね。

 

        

 ここでは大丈夫、変わってもいいというふうな、監督の演出がありましたので、それは何回も何回も撮ると、だんだん自由になって、このぐらい自由にできると、いい瞬間があるかなあと思いながら、少~し自分が、カメラの前で芝居することが自由になったような気がした。やっぱり自由さっていうのは大事だと思います。

役:(俳優は)経験を積めば積むほど垢がついてくるし、まあ、役所広司ってことはバレバレなわけですが、その中でも登場人物を借りて、こういう人いるなあとか、役所広司っていうのを忘れてくれる瞬間があれば、成功だと思うんですけど。

だから俳優って長く続けていくと、どんどんどんどんすり減っていくものが多くて。

本当に役者の仕事、頼りないんですよね。何すればいいか分からいことはあるんですけど、結局何が力になるかってことは、自分が生まれて生きてきた過程の中であったこととか、読んだ本を引っ張り出すとか、見た映画を引っ張り出すとか、たくさんかき集めていく作業のようなもんですね。

         

人との付き合いとか、とことん付き合ってみないと、あとあと心に残るものはないんだろうと思いますね。会う人と本当に真剣に付き合ったとか、そういうことが役に立っている気がしますね。

ア:これまでの半生を振り返ってみて、どう思われますか?

役:やっぱり人ですね。僕が出会った人が、自分を育ててくれた人達と出会えたということが、自分を幸運な男だと思いますね。いいことも悪いことも教えてくれた人と出会えたし。

ア:Shall we dance? は皆お好きだったようですが、

役:例えば、長いセリフがあるんです。あの芝居の時はすごい待たされたんですよ。時間が押していて、長いセリフだから大事だなあと思っていたんです。芝居になって、とても感情的になったんです。で、監督が「もっと感情押さえていきましょう。」ってことで、やったのがあれですよね。色んなことがあるんですよ。

まあ、自分は後悔しているくらいがいいのかなあと思う、俺の仕方で。

 

      

 

ア:だから、次に続く。

役:それ、ありますよね。

役者って商売は、次あるといいのかもしれない。そうやってここまで長く来ているのだと思いますよ。

 

 いかがでしたか? インタビューはかなり省略・中略が入りましたが、役所さんの飾らない人柄、自然体の生き方が感じられる。役所さんのこうした目立たない、しかし、人間的な振る舞いが、彼の長続きする俳優人気を支えているのであろう。