176)俳優山崎努さん

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 あの苦み走った顔には、「名渋俳優 山崎努」という呼び方がふさわしい。

NHK BSで、「黒澤明の映画はこう作られた~証言・秘蔵資料からよみがえる巨匠の制作現場~」が再放送された。

 国際的に名高い、映画監督黒澤明の独特の撮影方法や、知られざる苦悩を描いたものであるが、後半に山崎努氏のインタビューシーンがあった。

彼は風貌自体がそうだが、いつも苦み走った、しかめ面の顔をしている。話しかけにくい、怖そうな俳優さんである。

 

 山崎氏はインタビューが苦手で、今まで受たことがあまりない。今回が初めてのようなことを言っていた。次は、彼が話した中で、私が印象的に覚えている部分である。

 

 映画『天国と地獄』(制作1963年)のオーディションがあって、山崎も受けろということで、受けた。そこで黒沢監督から映画の内容、役どころの説明があった。

黒沢監督から「どうですか」という質問があり、自分は「難しい役で、できない」と答えた。

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その時の監督の話がおもしろい。

 

「映画は、自動販売機にお金を入れてジュースが出てくるという簡単なものではない。映画を作るためには、さまざまな大変なことがある。それをいろいろな人達と、いっしょに考え乗り越えていくところにおもしろさがあるんだ」

 

 その話が説得力があったのだろうか、山崎氏はオーディションを受け、25歳で犯人役をやり、成功をおさめていく。

 

 山崎氏の黒沢監督についての話も印象的であった。

 

「僕は俳優なのに、人の目を見て話すことができないんですよ。自意識過剰というか・・・。

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 黒沢さんは黒メガネをかけてますね。こちらから目が見えない。

あるとき黒沢さんが黒メガネを外したんですよ。その目が細くて、すごく優しい目だったんですよ。笑っているというか、あったかい目なんですよ」

 

 そして、最後に彼は言った。

 

「ぼくはこんなふうにインタビューすることは苦手なんですよ。今回はインタビューを受けたけれど、これでおしまい。もう受けることはない」

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 彼の自意識過剰、はにかみ屋、人と接するのが苦手というような性格が、彼の表情や性格の渋さや凄みを作り出したのだろうか。

 

 ほぼ同期の俳優に「緒方拳」がいる。彼は辰巳竜太郎・島田省吾率いる「新国劇」出身だが、渋さでは山崎努に劣らない。

 

 インターネットでは山崎努氏を「生きている」「死亡」「死去」「訃報」などで調べている人が多いという。(私もなぜかその1人で、ウィキペディアを見て誤りに気がついた。)

山崎氏はもちろんご存命だが、「山崎さんと故緒形拳さんが似ている」ため、多くの人が2人を勘違いしているのではないかと思われている。2人の雰囲気が似ていることと、山崎氏が映画「お葬式」や「おくりびと」など、葬儀に関係する映画に出演していることなどで、もう亡くなっていると思われてしまうのではないかという。

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 ふと現在生きている俳優陣を眺めたとき、山崎努氏や故緒形拳氏に匹敵する、渋い、苦みの効いた俳優は誰だろうかと思った。

国村隼(くにむらじゅん)? 松重豊(まつしげゆたか)? 2人とも渋い俳優さんだ。でも、彼らは主役級よりは少し落ちる。西田敏行? 彼に山崎努氏のような渋みはない。

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若手では、香川照之堺雅人? 香川照之は自己の路線を持っているという点では有望株だ。堺雅人は甘すぎる。

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 エンターテイメントも大事だけれど、色事とは全く切り離された、渋い、ガチガチの、苦み切った個性俳優が、生まれ、育ち、ずっと残っていってほしいと思う。

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