110)入院患者への付き添い

                         

 


 

 

        f:id:hattoritamo:20210112112351p:plain

 夫が初期肝臓がんのため、東京の大学病院に入院した。肝臓の右側に14mmのポリープができているという。20mmまでは初期の初期ということで、あばら骨の下あたりに針を通し、ラジオ波で焼き切るという。外科手術ではなく内科的手術なので、全く心配は要らないそうだ。

 コロナ禍で、付き添いや面会者に制限がかけられていることは聞いていたが、入院当日病院へ行ってみて、その厳しさに驚かされた。

           f:id:hattoritamo:20210112111755p:plain

 T大学病院では、患者の入院当日と退院当日については付添人が1人に限り許される。私も面会受付で理由を述べ、記帳することで、カードが渡された。

 このカードは病棟階ごとにある、病棟に入るための仕切りドアのカードで、これがないと病室へは入れない。

 病棟は出るのは簡単だが、再入室を含めて入室が難しい。

たとえば入院当日、患者にとって必ず準備不足のものが出てくる。夫の場合は、水2ℓ入りのペットボトルとコップが必要であった。1階の売店に売っているので、私が買いに行った。「ちょっと行ってくるね」程度の気持ちであった。

私はそれらの品物に、雑誌とのど飴を買い足して、病棟に戻ろうとした。そのとき、次にどうすればいいのか、ハタと戸惑った。

 看護師さんの説明では、付き添い人が売店などへ行ってまた戻りたい時は、1階の面会受付でその旨を言って、改めてカードをもらう必要があるとのことだった。外へ出て戻るたびに受付で手続きをして、カードをもらう必要があった。

 

        f:id:hattoritamo:20210112112906p:plain     f:id:hattoritamo:20210112111914p:plain     

 面会受付には守衛さんのようなおじさんがいた。私は、今日は夫の入院日で、必要な物を売店で購入して、また病室に持って行きたいと告げた。

 おじさんは受付ノートに、患者名、訪問者名、連絡先、目的、時刻などを書くように指示した。

 私が一生懸命記入している間、おじさんはどこかに電話をかけている。聞こえてきた内容から、夫の病室の階のスタッフルームの看護師と話しているようだ。

 

売店で買物をして、患者さんに届けたいということですが・・・」とおじさん。

 

 私はてっきり、すぐまたカードをもらって夫の病室に戻れるものと思っていた。私から直接夫に品物を渡せると思っていた。夫には「ちょっと行ってくるね」としか言っていない。

 しかし、現実はそうではなかった。

 受付のおじさんが言った。

 

「あそこのエレベータに乗って、病棟階で降りたら、エレベータの前で待っていてください。看護婦さんがそこまで取りに行きますから」

 

 私は言われるままにエレベータに乗り、11階で降りた。そこは病棟に入るガラス戸の前である。

 看護師さんはまだ来ていなかった。2,3分待つと、担当の看護師さんが「ごめんなさ~い」と言って、走ってきた。彼女はガラス戸のドアの外へ出て、私から荷物を受け取った。

 

「必ずちゃんと渡しときますね」

 

 私は頭をぺこぺこ下げて、よろしくお願いしますとだけ言った。本当は「私から直接夫に渡したい」と言いたかったが、言えなかった。

 私はそのまま、夫とは別れの挨拶もすることなく、帰ることになった。         

         f:id:hattoritamo:20210112111529p:plain