75)ゴミ収集

私が住んでいる東京都のH市は、数年前に、住宅のスパンごとにあるゴミ置き場での収集から、自宅の前に出す戸別収集に変わった。近所のおばあちゃんは、「絶対反対だ、市役所に電話する」などと不満を漏らしていたが、私なんかはわざわざゴミ置き場まで持って行かなくていいし、掃除当番もなくなるから、むしろ戸別収集に賛成のほうだった。

戸別収集になってのマイナス点は、ビニールのゴミ袋が有料になったこと、以前は10枚ぐらい入って80円程度(大きさによって値段が変わる)であったのが、戸別収集になってから1枚が80円程度になった。ただし、袋の値段が高くなったので、なるべくゴミを出さないようにする家庭が増えたようで、それはプラス点ではある。

戸別収集のマイナス点は、ゴミの管理を各家庭がしなければならないという点である。燃えるゴミ(可燃ゴミ)などはビニール袋に入れただけではカラスにやられてしまう。鋭いくちばしでビニールを破り、食べ物を引きずり出し、そこいらじゅうに散らかす。

では、ネットをかけておけばいいかというと、ネットぐらいではカラスの攻撃を防ぐことはできない。多くの家庭では、ビニール袋を丸や四角のプラスチック製のゴミ箱に入れている。四角いしっかりしたプラスチックや木の箱をゴミ箱の上から被せている家庭もある。

一方、燃えないゴミや資源ごみなどは、もちろん袋代は髙いが、重いものを集積場まで運ぶ必要がないので、非常に助かる。

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ゴミの仕分けは本当に難しい。特にプラスチックゴミ(プラゴミ)なのか、燃えるゴミか燃えないゴミなのかの判断が難しい。分別について、絵入りでカラー刷りの説明書が毎年配られるが、そしてそれには具体例が多々載せられているが、必ず載っていない物もあるので、やっぱり難しい。

特に私などは別の県から引っ越してきているので、県どうしのやり方が異なる部分が多く、しょっちゅう失敗をする。

前の県では、「ビニール袋や食品トレイなどは簡単に洗ってプラスチックゴミに分別する」だった。ところが東京都であるH市はそうではない。東京都は焼却炉の性能が良いので、ビニールやプラスチックは可燃物のように燃やすことができる。したがって、私の解釈では、東京都は「食べ物などで汚れている場合や、判断の付かない(つまり迷う)場合は、可燃物として分別する」になる。

 

今でこそCDやフラッシュメモリなど簡便なものがあるが、私が働いていた1990年代では、記憶媒体としてはフロッピーディスクが中心であった。私は外国人に日本語を教えていたので、教材作りのためにたくさんのフロッピーディスクを使い、退職してからもずっと保存していた。

2、3年前、身の回りを整理するためにフロッピーディスクを処分することにした。そして、ハタと困った。フロッピーディスク可燃ゴミかプラゴミか、はたまた不燃ゴミか。

H市のゴミ分別説明書には、たぶん混乱する市民が多いのであろう、一つの指針として、不燃ごみはガラス類、陶器類、金属(メタル)類の三種類が示されている。それ以外はどこに分別していいのかは示されていないが、とにかく不燃物扱いしてはいけないことになっている。これはすごくわかりやすい指標である。割れたガラス(→ガラス)や、茶碗やお皿(→陶器)、そして、やかんやフライパン(→金属類)は、不燃ゴミである。その3種だけが不燃物である。

フロッピーディスクはケースと中身に別れる。中身はプラスチックと金属でできているが、ケース(CDケースも同じだろう)は完全にプラスチックゴミのはずである。

私はそう判断して、そして、自分の判断に自信を持って、大量のフロッピーディスクの処分を行った。一つ一つケースを外して、透明のビニール袋に入れた。結構たくさんあって大袋がいっぱいになった。そして、大袋を次の日のプラゴミ収集の日に家の前に置いた。

H市の私が住んでいる地区は、プラゴミ収集の時間が比較的早い。朝の9時半過ぎにゴーという音がして、ゴミ収集車が来たということがわかる。

その朝も9時半ごろに収集車の音がした。そして、そのとき、玄関ドアのチャイムがピンポーンと鳴ったのである。

私は分別に自信があったのではあるが、少し不吉な予感がした。今までも分別に関しては失敗が多く、びんの回収などでは3回も持って行ってもらえない時があった。

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「分別回収車ですが」

 

インターホン越しに聞こえてきた声は、はつらつとして元気そうな、男性の声であった。

玄関のドアを開ける。ドアの前にいたのは、きちんとワイシャツを着た、サラリーマン風の男性だった。私が抱いていた、いわゆる「ゴミのおっちゃん」ではなく、むしろ颯爽とした、清潔感漂う男性であった。現場ではなく事務職のスタッフのような感じがした。

彼は歯切れのいい声で、私の顔をしっかり見ながら、言った。

 

「ここに入っているのは収拾できません」

 

私は「えーっ!」と言った。

「プラスチックケースはプラゴミではないんですか。プラスチックゴミだと思ったから、中身を全部出して、まとめたんですよ、時間かけて。」。

 

収集係の人は彼だけでなく、あと二人いっしょにいた。そのうちの一人が言った。

「プラスチックゴミは、スーパーの袋とかトレイとか一般に出るプラスチックです」。

 

私が怪訝な顔をしていたら、また、別のおじちゃんが言った。

 

「袋や容器に「プラ」と書いてあるのだけがプラスチックゴミです」。

 

私は頭の中で【プラ】のマークを思い浮かべていた。しかし、心の中で「プラスチックケースがプラゴミでなくて、何がプラゴミなの?」といらだたしく思った。

私は聞いた。「じゃ、このケースはどこで出すんですか?」

 

私は本当にわからなかった。颯爽とした男性は、ちょっと迷ったふうに私には思えたが、「「可燃ゴミ」です」と言った。

 

彼らは収集の途中にある忙しい身なので、私はそれ以上文句を言い続けることはしなかった。いくら粘っても、彼らがフロッピーディスクのケースをプラゴミとして持って行ってくれることはない。

 

家の中に戻って私は考えた。前に住んでいた県では、プラスチックケースは絶対にプラゴミに属する。H市、つまり東京都ではそうではなく、可燃ゴミで出せという。

 

私は戸惑ったが、しかし、時間が経つにつれてこう考えるようになった。考えるようになったというより、こう考えるようにしている。

自治自治体によって分別の仕方が異なる部分がある。それは焼却炉の規模や能力によるし、その自治体の今までの伝統もあるかもしれない。ともかくこのH市では、迷うときは、そのゴミは可燃ゴミに分別する。アルミフォイルや発泡スチロールの箱も、大きい場合は適当に割って可燃ゴミに入れる。

【プラ】というマークのある物のみがプラゴミになる。マークがない物があった場合は、【プラ】が付いている物をいろいろ思い浮かべて、自分自身で考え、判断する。わからないときは可燃ゴミへ入れる。東京都の焼却炉は性能がいいのだから、少々間違っても大丈夫なのだ。

 

結論が出たようで、しかし今でもモヤモヤする時がある。

膨大な種類の、膨大な品々を、すべて一律に分別するということが土台無理なのだから、結局は、境界線の、判断のできにくい物は、各人が賢く、適当に判断すればいいということなのであろうか。