206)コバエ騒動

 これは今年の夏の話である。少し季節がずれるが、ご容赦願いたい。

 

        

 1か月ほど家を空けて、9月の初めに戻った。家に戻ったら、台所の生ごみ入れに、まるで黒ゴマが降りかかっているように、コバエがたかっていた。いつもは長期に留守をする時は、特に生ごみの処理はきちんとしていたのだが、今回はうっかりしてそのまま放置してしまったようだ。

 うちでは、使用済みの牛乳パックをよく洗い、乾かして、そこにビニール袋を入れ、台所の流しのそばに置いている。ビニール袋が生ごみで一杯になると、新しい袋に取り換えたり、何回か使うと牛乳パックごと捨てる。

        

 コバエが集団発生したようである。牛乳パックを ちょっと持ち上げると、うわぁーと舞い上がる。しようがないので、まず、他のビニール袋で上から覆う。しかし、コバエはしたたかで、あるかないかの袋の隙間から飛び出てくる。

        

 インターネットで調べると、コバエはショウジョウバエなどの小さなハエの総称で、「コバエ」という名前のハエは存在しないらしい。ショウジョウバエ、ノミバエ、チョウバエなど、いくつかの種類がある。ショウジョウバエで言うと、「生ごみに発生し、特に腐った果実を好む。台所が主な活動範囲である」とある。

 しかし、生ごみパックだけではなかった。冷蔵庫を、それも冷蔵庫の中の製氷器を開けたときである! 製氷皿の中に10数匹のコバエが死んでいたのである。全員氷にまみれて、討ち死にしているのである。

 

      

 

「えー、なんで氷の中に?」

 

 私は不思議であった、こんな冷たいところに、なぜ小虫がいるのかが。氷しかない冷たい中に・・・。

 そして、引き出した製氷器の隙間に恐ろしいものを見てしまった。何十というコバエの死骸が、黒い点々になって、また、固まりになって、製氷器の下にたむろしていたのである。

 

 製氷器を引き出し、氷をすべて捨て、洗う。無数の黒い死骸をふき取る。

しかし、これは序の口であった。冷蔵庫本体のケースの中にも、黒い死骸がたくさんあった。

 黒い死骸は、食品にたかっているというより、ほとんどがケースの下やケースの周りに集まっていた。

        

 今どきの冷蔵庫は、中のケース(食品入れ)がほとんど外せる。きれい好きのママさんのためにいつでも取り外して、拭いたり洗ったりできるようになっている。それは有難かった。

 冷蔵庫のケースを取り出し、全て洗い流すということになってしまった。

冷蔵庫の中にも動き回っているコバエもいた。夫が掃除機で吸い取るのだが、吸い取っても吸い取っても、別のコバエがどこかで動き回り、飛び回っている。

 次の日の朝も、そして、その次の日の朝も、前日あんな入念にふき取ったはずなのに、死骸が黒ゴマをこぼしたように寝転がっている。黒ゴマの1、2匹は必ず生きており、突然動き出す。

        

 若い時にも一度経験がある。やはり暑い夏に数週間アパートを留守にした。家に帰ってみると、ゴミ箱からウジ虫がにょろにょろと這い出していた。その時は1人だったので、「気持ち悪い!」と言いながら、片づけをしたように覚えている。どうやって処理したかは、忘れてしまっているが。

        

 虫も大変だなあと思う。彼らも生きていかなければならないのだから。しかし、今回不思議だったことは、冷蔵庫の中で、なぜあの冷たい製氷器にコバエはたかろうとしたのか。

 食品ケースにおいても、食品そのものにたかるのではなく、食品ケースの下にもぐってしまうのか。

 暑い夏で、少しでも水分がほしかったのだろうか。冷たい場所がほしかったのだろうか。

今のところはそれしか考えられない。

        

 それにしても、夏場、家を空けることは、大変な代償を必要とすることを、今更ながら思い知らされる一幕であった。そしてその後しばらくは、料理にゴマが振りかけてあると、なかなか食べる気になれなかった。その大きさといい、色といい、ゴマとコバエはそっくりなのである。