16)授業を見せていただく

 名古屋時代は、いくつかの大学で何人かの先生に授業を見学させていただいた。その中から、今回は水谷先生の授業についてお話ししたいと思う。

 水谷先生が、日頃よくおっしゃっていたことは、「人に不快感を与えない日本語」を学習者に身に付けさせたいということであった。

 見学させていただいた授業は発音の練習の授業だったが、水谷先生はワイシャツの袖を腕まくりして、学生の口の中を覗き込まんばかりの、すごい迫力で指導されていた。

特に韓国、中国の学生に対して、「日本人は、君たち韓国、中国の人の日本語に対して厳しいから、君たちこそ真剣に発音の練習をしないといかん。下手な発音をしていたら馬鹿にされるぞ。」と言って練習をさせておられた。

あんなにこわい先生を見たのは初めてのことだったし、ことばを教えることが、非常に厳しい、そして、厳粛なことだということを教わったような気がした。

 それ以来、私は人から、どんな日本語を教えるのかと目標を聞かれると、「人に不快感を与えない日本語が話せるように」と答えている。また、韓国、中国の学習者には、彼らの日本語レベルが高ければ高いほど、発音に留意するようにと、言い続けている。

 今だったら、水谷先生の言葉は韓国や中国の方々から反発されるかもしれないが、当時の水谷先生の真剣な授業は、私の日本語教育観を大きく変えるほどの感動的なものであった。