17) 授業を見せていただく(2)

    アメリカから客員教授として来日されたB先生には視聴覚教育について、楽しいお話を聞かせていただいた。

 お話によると、B先生はときどきネクタイの色を変えたり、服装を変えたりして授業に臨まれるそうだ。すると、学生はいつもと違う先生を見て、「先生、新しいネクタイですね」とか「先生は今日はめがねをかけていますね」とか話しかける。それをきっかけにして、B先生はいろいろ会話を広げていかれるそうである。

 学生がそのとき言いたがっていそうな表現や文型を、そのときタイミングよく、自然な形で導入することもできる。

 B先生の授業は、その当時、そして、現在でもよく言われる学習者の気づきを利用した授業導入の一つの形だったと思う。

 B先生からはビデオ教育に関しても貴重な意見をいただいた。

 ビデオを使っての日本語指導は、当時もいろいろなやり方が開発されていたが、B先生のそれはやはり学生の気づきを利用したものだった。

 たとえば、ドラマを見せるとき、まずドラマをいくつかのセグメントに分け、まず、最初のセグメントを見せる。

 1度見せたあと、学生に気がついたこと、自分が聞き取れたこと、わかったことをどんどん言わせる。

 学生によって、理解の程度も違うし、聞き取れた単語や表現も違うわけだが、できるだけ多くの学生に自由に言わせる、そうして、学生のわかったことをつなぎ合わせてみると、ドラマの、そのセグメントの内容が少しずつ浮かび上がってくる。

 そして、また、学生にもう一度同じ部分を見せる。今度新たに聞き取れたこと、わかったことなどを学生に言わせる。一度目で学生はだいたいの内容がわかってきているし、二度目はそれを踏まえての視聴なので、学生はより理解が深くなっている。

 3三度ぐらい同じことをすると、ほとんどの学生はその場面を理解することができるようになる。

 学生にとっては単にビデオを見るだけでなく、気をつけて見なくてはならない。また、気がついたことを何でも言って話し合いもできるので、活発なビデオのクラスになっていた。

 私はのちに、ビデオのクラスを任されたとき、B先生のやり方をまねてみた。

 題材は日本のドラマで、ビデオの授業の経験のあまりない私でしたが、クラスがとても楽しく盛り上がった。

 ドラマ全体をどうセグメントに区切っていくかはよく考えて決めなければならない。  

 すべてを同じ比重でするのかどうか、どのように軽重をつけるのかは授業運びをうまくやるためにも、工夫する必要がある。

 私はビデオクラスでは気づいたこと、わかったこと以外に、逆に聞き取れなかった(一部は聞き取れたが意味がわからない)ことばや表現も、学生に発表させてみた。

 そして、聞き取れなかったことばや表現には、他の学生の答えを利用したり、こちらから適切な答えを与えたりした。

 学生は聞き取れなかったことが先生の説明でわかったので、次にはより多くのことが理解できるようになり、今度は、今まで全く聞こえなかったことばや表現が聞こえ始める・・といった感じで授業がとてもやりやすく、楽しいものになっていった。

 ドラマが難しすぎたり、内容的に学生に興味のないものではうまくいかないかもしれないが、B先生のやり方は、ビデオ授業の効果的なひとつの方法だと言えるのではないかと思っている。