70代後半なので、運転免許の返納を考えていた。
寂しくはなるけれど、事故の責任から解放されるという安堵感が得られるし、少々のところは歩いていけば健康にもいいはずだとも思っていた。
しかし、夫が病気になって、曲りなりにも私が運転をして近くの病院に連れて行ったとき、「通院には車が便利だなあ」という気持ちになった。
その気持ちがだんだん昂じて、ついには、「何もわざわざ免許返納しなくても、通院の運転のためにも、免許は更新しよう」という気持ちになった。
さあ、大変である。
この3、4年運転していなかった。それでなくても運転は本当に下手くそである。
免許更新には認知試験に加えて高齢者講習会があり、そこでは実技チェック(試験ではない)があるので、講習会の前に練習しておく必要がある。
1か月前から運転練習を開始することにした。
夫の提案で、土曜か日曜の朝早く、車が少ないときに近場を回る。夫が助手席に座ってくれるという。
しかし、晩酌の習慣のある夫には、朝早の「下手くそ運転」に付き合うのは2回ほどしか続かなかった。
夫とは最寄りの駅、市役所、公民館、そして、イオンモールまで行った切りだ。
一人でもう少し遠いところまで運転しておく必要がある。
仕方がないので、ある土曜日、夫がまだ眠っている早朝に、私は決意して一人で運転を試みることにした。
結果的には夫がいなくても無事に戻ってこられたが、いくつかの反省点があった。
まず、家を出るとき、慎重に左右を見て出たのに、実際はすぐ右に車が来ていた。
自宅のガレージが少し奥まっていて、前の道路の車の往来に注意が要るのは承知していたが、ひやりとした。
取手駅までは294号線を走るが、以前走ったときは、制限速度は50キロだったはずなのに、現在は全線が40キロになっていた。それに気づかず、50キロでずっと走っていた。
294号線の途中にキャノンの支社が右手にある。大きな工場で、入り口近くには専用の右折車線ができている。私は気をつけていたのだが、工場前の大きい交差点でうっかりキャノンの入口に入りそうになった。
294号線をしばらく行き、取手駅前で国道6号線にぶつかる。6号線を無事越えて、駅前のロータリー行の車線に入ろうとした。駅に着いたら右に曲がって戻ってくるのだからと、右側車線に入ろうとした。
そのとき、すぐ目の前に来たタクシーが「ブーブー!」とクラクションを鳴らした。運転手さんがフロントガラス越しに、腕を×印にして、「違う違う!」と叫んでいる。
私自身は、ロータリー行の車線が2車線だと思い込んでいたが、実際は1車線であった。だから私が入ったのは、対向車線である。
つまり、私はすんでのところで逆走しそうになったのである。
タクシーの運転手さんに助けられて、逆走は免れて、駅から家に戻ることができた。
家のガレージに入れる車庫入れは、いつも通り時間がかかった。
今回の一人運転の反省はいくつかあった。
反省の根底にあるのは、目的地へ行くのが久しぶりであったため、自分の記憶があいまいになっていたこと、思い込みが強くなっていたことである。
高齢者の運転事故は反射神経が鈍っていることもあるが、運転者の過去の記憶のあいまいさや、思い込みの強さによる場合も多いのではないかと思った。
運転技術の低下を改善することとともに、常に自分の記憶をリフレッシュにして、思い込みをしないようにすることが、何より大切であると痛感した次第である。