125) #日本語 「伸び感・抜け感・ぬめり感・・・」

 

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 最近使われている日本語の中で、おやっと思うことがいくつかある。今までに言葉については2、3取り上げてきたが、今回は「~感」という表現について考えてみたい。

 

 「危機感、高級感、期待感、責任感」というような「~感」という使い方がある。3字熟語に多いようだが、「実感、反感、敏感、鈍感」のように2字熟語で使われることも多い。通常は「漢語+感」の形をとるが、「セレブ感」というような言い方もある。おおよそは、「~のような感じがする」という意味である。

 

 ショップチャンネルQVCなどのテレビの通信販売を見るのが好きだ。特に洋服などのファッション通販番組が大好き!

 この間ファッション通販で女性用のシャツやワンピースやパンツなどの宣伝をしていた。売り子の女性とファッション業界の女性がそれぞれの衣服をかざしながら、あれやこれやと説明をするのだが、彼女たちが「~感」を多用するのに驚いた。

    

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「抜け感、伸び感、垂(た)れ感、落ち感、ぬめり感、こなれ感・・・」

 

 これらの語は次のような文の中で使われていた。

 

「この衿(エリ)は抜け感を出しつつ、女性らしさを強調しています」

「この部分はデニムなのに、驚くほど伸び感がありますね」

「ルーズハイウエスト」は垂れ感があって、ワイドパンツを引き立てています」

落ち感のある素材なので、華奢な雰囲気をプラスすることができています」

「この布地はしなやかで、ぬめり感のある独特の触感が備わっています」

「トップのボタンを外すだけで、こなれ感が生み出せます」

 

 これらの語は国語辞書(『広辞苑第七版』)にはまだ載っていない。しかし、スマフォで検索すると、丁寧な説明が載っている語もある。やはりファッション関係が多い。

 大まかにまとめると次のようになる。

 

抜け感:力を抜いた、隙を見せるような感じ。

伸び感:適度に、心地よく伸びる感じ。

垂れ感:ゆったり下に垂れている感じ。

落ち感:やわらかくてドレープ性が高く、着た時に生地がストンと落ちるような重みのある感じ。

ぬめり感:触ってのなめらかさ、しなやかさ、やわらかさの感じ。

こなれ感:「頑張っている感」を出さずに、おしゃれな着こなしに見せる感じ。

 

 ほかにもまだまだありそうだ。ファッションから離れても「~感」はかなり自由に使われている。「お値ごろ感、お手頃感、いまいち感、ワイルド感、しびれ感、ハリ感、ボリューム感、ふわふわ感」などなど。

 

 最近、次のような使い方をするのを耳にした。

 

「楽曲は企画はすごくいいのに、もうちょっと感の残る作品でした」

「スロットで、毎回50円玉1枚入れてリール回すのと、普通にコイン3枚入れて回すのと、どっちがもったいない感、高いですか」

「忙しい日々が続いたので、ちょっと休みたい感がある」

 

 こうなると、ふーっとため息が出そうにもなる。意味は分かるのだが、「大丈夫かな?」という気持ちと、「ま、いいか」という気持ちが交錯する。

 

 先月テレビのニュースで、東北北大震災10年後の感想を聞かれた主婦が次のように言っているのを聞いた。 

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「インタビュアー:大震災の復興は遅れていると感じますか?」

「主婦:はい、動いているのですが、遅いですね。でも、ゆっくり動いているほうが

向き合い感があっていいかもしれない・・・。」

 

 主婦が言い表したかったのは、「向き合っている感じ、味わい」というほどの意味であったのだろう。

「向き合っているという感じがする」の代わりに「向き合い感がある」と言い表す理由は、ダラダラとした言い方を短くしたいということと、一つのまとまった概念として、より明確にまとめて、押し出しているということなのだろうか。

 

 これらの「~感」の新しい使い方は、今後どの程度広がるかは別にして、どこかしゃれている感じ(おしゃれ感)がしないでもない。