私も夫も後期高齢者の仲間入りをして、日常生活で相手の言うことを聞き間違えることがしばしば起こる。
昼食に私はうどん、夫はラーメンを食べているとき、うどんのしこしこ加減がなかなか良かったので、私が「お父さん(夫のことをそう呼ぶ)も2、3本すする?」と聞いてみた。夫は、他のことを考えていたのか、聞き取りにくかったのか、「うん? さんぽ(散歩)する?」と聞き返した。
「2、3本すする」の後半部「3本すする」を「散歩(さんぽ)するsanpo suruと聞いたのである。
「聞き間違い」の原因としては次のようなことがよく言われる。(https://be-healthy-beauty.com/kikimachigai-1106#より)
- 相手の滑舌が悪い
- 耳馴染みのない言葉でピンとこない
- 会話に集中していない、聞こう・理解しようという姿勢がなってない
- 耳が悪い
- 脳に問題がある
うちの夫はいつも他のことを考えているので、「会話に集中していない、聞こう・理解しようという姿勢がなってない」のが聞き間違いの一番大きな原因と思われるが、我が家の夫婦の聞き間違いを改めて書き出してみると、次のようなことが言えそうである。
1.子音のところで取り違いをしていることが多い(子音が聞き取りにくくなっている)。
2.アクセントの似ている語と聞き違える。
3.和語より漢語が聞き取りにくくなる。
4.自分の知っている事柄と引き付けて聞いてしまう。
1~3に沿って、我が夫婦の聞き間違いを眺めてみよう。音に近く表せるように、ローマ字を使って表してみる。< >内は状況を、( )は実際の発話にはなかったが、省略が明らかなものを示す。
1)私:(うどんを)2,3本すする?
夫:うん? さんぽする?
sanbon susuru
sanpo suru
うどんがおいしいので、ラーメンを食べている夫に少し食べるかの意味で尋ねた。夫には。「2、3本すする」の「3本すする」が「さんぽ(散歩)する」に聞こえた。)
sanbonのbと、sanpoのp(いずれも子音)の混同、また、susuruがsuruに聞こえたようだ。前者は子音の混同、後者はsu音の連続susuが一つしか聞こえなかったようだ。
2)私:<朝食をテーブルに用意して>
お父さん、(先に)食べといて。
夫:うん? キャベツ?
tabetoite
kyabetsu
夫には私の言った「食べといて」が「キャベツ」に聞こえた。ローマ字書きにすると、taがkyaに、子音だけ取り上げると、tがkyに聞こえたようだ。
3)<新しい電気毛布を使い出した夫に>
私:あったかい?
夫:うん? あしたかい?
attakai
ashitakai
「あったかい」が夫には「明日(あした)かい」に聞こえた。促音のatがashに聞こえた。子音kと、shの混同が起こったようだ。
4)私:<自分が作ったお総菜を見せて>
しおこぶ(塩昆布)入ってるんだよ。
夫:きのこなんか入ってないよ。
shiokobu
kinoko
「塩こぶ」が夫には「きのこ」に聞こえた子音。shとkとの混同である。1)~4)を見ると、聞き間違いはそ、どちらかというと語頭、または語の前半の音で聞き間違いを起こしてしまうように思える。
5)<テレビの料理番組を見ていて>
テレビ:ねっとうにつける・・・
夫:ネットにつなげる?
nettoo ni tsukeru
netto ni tunageru
テレビの料理番組で「トマトを熱湯につける」と説明したのを、夫は「ネットにつなげる」と聞いて、話がトンチンカンになった。熱湯(ねっとう)の語末のoが長く発音されなかったこともあって、短母音のnettoと混同したようだ。tsukeruとtsunagaruは音が似ていないが、nettoと誤解した夫は、ネットと結び付きやすいtsunageruを思い浮かべたと考えられる。
6)<テレビのニュースを見ていて>
テレビ:栃木県かぬまし。
私:えー、かどまし(門真市)?
kanumashi
kadomashi
ニュースの中で「鹿沼市」と言ったのを、以前私自身の住んでいた隣町の「門真市」と言ったと勘違いする。これも子音nとdの混同と考えられる。また、人は自分の知っている場所や事柄と結び付けて聞きやすいと考えられる。
7)<テレビ番組を見て>
私:パトリックさんが言ってた。
夫:かとりしんご?
patorikkusan
katorishingo
Social distanceかSocial distancingかの話をしていて、タレントのパトリック・ハーランさんがそう言ったと言ったら、夫には香取慎吾が言ったと聞いたようだ。pとkの混同と考えられるが、patoriとkatoriの子音+母音の音が似ているのも聞き違いを促進したように考えられる。
8)私:(私なんか政治の話を)掘り下げる
ことができないもん。
夫:食べることができない?
horisageru
taberu
「掘り下げる」を夫は「食べる」と聞いたようだ。最初のhoriはあまり聞こえないで、sageruをtaberuと勘違いしたようである。両者とも母音の配置が同じで、s対t、b対gがのところで聞き間違いを起こしている。
9)夫:書いてみたんだよ。
私:かいてんしたんだよ?
kaitemita
kaitenshita
夫が「書いてみたんだ」と言ったのを私は「回転したんだ」と聞いてしまった。私の頭に何かが回転するというイメージがあった。
今現在は、お互いの聞き間違いを笑って済ませているが、これがどんどん進んでいったらどうなることかと心配する。相手の言い間違いに気づかなくなって、次には自分の言い間違いにも気づかなくなっていく可能性は高い。お互いトンチンカンなことを言って、わかったような気になって、それでも許されるようになっていくのだろうか。恐ろしいような気がする。