96)青森の旅①

友人達4人のグループで東北の恐山に行った。友人の一人のお父さんが亡くなられ、霊媒師の「イタコ」にお父さんの霊を呼んでもらおうという目的があった。友人とお父さんは涙の再会をし、私達もいっしょに泣いた。これはその大イベントのあとの、青森の親切な一家とのお話である。  

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私は恐山で大学時代の友達と別れた。友達たちはそのまま南へ向かって、帰路に着く。私だけが一人そのまま残る。せっかく恐山まで来たのだから、西側に位置する仏が浦に行ってみたいと思った。ガイドブックでは、仏が浦の海は透明で、無数のウニが岩場にしがみついているのが手に取るように見えるという。

仏が浦は、海の荒波に浸食された凝灰石が奇岩・巨岩となり、それらの岩がすっくと立ち並ぶ。まるで、白いローブを着た神父様が並んでいるようだ。

ボートに乗って、仏が浦の海を楽しんだ。30分もしたろうか、4、5人いた観光客は一人減り二人減りして、気がついたときには周りには誰もいなくなっていた。

周辺の小高い丘を歩いてみた。夏の太陽は傾きかけていたが、空は明るく、日差しも強かった。私は気の小さな怖がりの人間であるが、思い切って行動に移すことが多い。「する」か「しないか」を迷うときは、必ず「する」を選んできた。理屈を考えてというより、脅迫されるような感じがして、体が動き始めてしまうのだ。

今回もそうだった。友達は全員大阪に帰るのに、私だけ居残ることを選んだ。

丘はデコボコしている。背の高い草の茂みがあるかと思うと、小高い禿山から砂や土がこぼれていたりする。

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そのとき2台のオートバイが乗り捨てられているのが目に入った。小高い禿山の、少しえぐられて土がむき出しのところに、中型のオートバイは立てかけてあった。一つが黒で、もう一つが赤である。

オートバイを見つけた瞬間、私は走り出していた。

「オートバイがある、それはこの近くに人がいるということだ。それも二人だ。男だ。」

方向音痴の私は、自分がどっちに向いて走っているのかわからなかった。ただ元来た道を引き返そうとした。変な男に襲われてはたまらない。

向こうから三輪トラックがやって来た。私は三輪トラックの前に飛び出て、一生懸命手を振った。立ちはだかるような格好で、止まれという合図をした。

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トラックは止まった。そして、中から小柄な老人が降りてきた。60代中半か70代前半であろう。私にはそう見えた。

私の表情が必死だったのだろう。老人は運転席の横の席を指さして乗るように促した。

トラックは丘を下り、海に沿って走り出した。海は何時間も続き、港らしきところに着いたときには午後7時を過ぎていた。その間、老人はほとんど喋らなかった。