289)★日本語(文法)ものがたり36「類義語・類義表現」の比較(4)「自然な演技・リアルな演技」

 「リアル」という言葉をよく耳にする。「現実的」「写実的」「あるがまま」というような意味である。

 

(1) 年を重ねグレイヘアが老婆のリアル感を醸すようになってきた。

(2) 自分ではリアルには覚えてないけど、そんな出来事があったなって、ふんわり覚えてるくらいです。

(3) 2024年1月9日、 同志社生のリアルな活躍を. ご紹介します。

(4) 映画『ゼロ・グラビティ』は、リアルで臨場感あふれる映像が話題を集めた。

 

(1) は女優宮本信子さんのお話の一部である。「白髪交じりの髪になって、ありのままの老婆の感じになってきた」という意味で、「リアル感」=「ありのままの感じ」と解することができる。

 

               

 

 (2)は「リアルに覚えていない」が、「詳しくは」「まざまざとは」覚えていない。後ろに来ている「ふんわり」(だいたい)が、対語のようになっている。

 

 (3)では、「リアルな活躍」は同志社大学の学生の「ありのままの活躍」を意味し、

 

     

 

 

(4)の「リアルで」は映画の「本物らしさ」を表している。

 

        

  

 当ブログの「258) 小百合さんと山田洋二監督」に書いたが、山田洋次監督にとっては「自然な演技」がとても大切らしい。山田監督が電気屋の兄ちゃん(寺尾聡)に求めていたのは、ごくありのままの、演技をしない、町中のどこにでもいる電気屋の兄ちゃんだったのだろう。

 

         

        

 

 しかし、ある俳優は「僕が目指しているのは、リアルな演技である。」と言っていた。山田監督の言う「自然な演技」と、俳優の目指す「リアルな演技」はどう違うのだろうか。

 

 ここでAIの考えを見てみよう。次はAI (bing)の答えである。

「そうですね。自然な演技とリアルな演技には微妙な違いがあります。自然な演技は、観客にとってその行動や感情が、まるで日常の一部であるかのように感じさせます。一方、リアルな演技は、実際の生活に忠実で、細部にわたって現実感を追求します。

例えば、自然な演技では、俳優がキャラクターの一部として自然に振る舞うことが求められますが、リアルな演技では、キャラクターの感情や状況をより深く掘り下げて表現することが重要です。」

 

 私は山田洋次監督のとる「自然な演技」こそ俳優の目指すべきものと考えていた。私は、「リアルな演技」を生々しい、ギラギラした、生きている演技ととらえ、日本では淡々とした、自然体の中に本当の演技があると思っていた。しかし、次の対談を読んで、「そうではない、「リアルな演技」こそ俳優の目指すべきものである」ということを知った。

 

正直言って、現段階では少し混乱している。

 

「リアリズムが映画の演技の基本」2024/3/7 (週刊文春対談)「阿川佐和子のこの人に会いたい」より

 

阿川:今回、濱口監督の映画をまとめて見て、笠智衆さんを思い出したんですよ。『東京物語』とか。

 

            

 

濱口:それこそ小津安二郎監督が言っているのは、舞台の演技をそのまま映画に持って来てもうまくいかない。(中略) 写実的、リアリズムであることが映画の演技の基本であって、余計なことはしないほうがいいということです。それは映画を撮る人が基本的に持つべき感覚なんだと思います。(中略)

 

            

 

濱口:でも、写実的ということが全てではないとも、小津監督はおっしゃっていますのでね。基本的にはあんまり余計なこと、意図がモリモリの演技をしないほうがいいんじゃないかなという気はしています。写実的な映画ばっかりでは、それはそれで貧しいとも思うので、いろんな映画があってほしいですね。

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 ある俳優さんが、次のようなことを言っていました。

 

「役を演じるとき、自然な演技とリアルな演技は異なります。 自然な演技は、まるでそれが普通(いつも)のことのように見えます。僕が目指すのは、リアルな(実物らしい、まざまざ見える、本物に近い)演技です。」

 

 あ~、私の頭はますます混乱している。

 

AIと俳優は「自然な演技とリアルな演技は異なる」と言い、俳優は「リアルな演技を目指す」。小津安二郎監督も「写実的、リアリズムであることが映画の演技の基本である」と言う。一方で、「写実的ということが全てではない。基本的にはあんまり余計なこと、意図がモリモリの演技をしないほうがいいんじゃないか」と言っている。

そして、山田監督は「自然な演技を良しとしている」。

 

 結論としては、「映画の基本は写実的であり、リアルであるべきである。しかし、あまりに余計なこと、意図がモリモリの演技はしないほうがよい」。そして、その行き着く先が山田洋次監督の「自然な演技」なのであろうか?