253)★日本語(文法)ものがたり25★変わりつつある言葉

              

 

 239) 244)では「呼称」(名前の呼び方)、248)では「言葉と文化」特に、「感謝を表す言葉」について考えました。もうしばらく、「日本語文法」にとらわれず、日本語のいくつかの側面について考えていきたいと思います。今回は、変わりつつある日本語の「言葉」の使われ方について見ていきます。

 

(1) フィギャースケートでは、私の推しは羽生弓弦だった。

 

        

 

 (1) のような「推(お)し」という言葉の使い方は、最初は違和感があった人も多かったと思いますが、今ではかなりの人が使うようになってきていす。

新しい使い方の「推し」は、「主にアイドルや俳優について用いられる日本語の俗語で、人に薦めたいと思うほどに好感を持っている人やもの」のことを言います。

 

また、次のような「結果」や「一択」も、若者を中心に使われ始めているようです。

 

(2) 林さんが言ってくれた言葉はとても暖かく優しかった。結果、周りの雰囲気も良くなって撮影は順調に進んだ。(週刊文春23年10月26日号「最後のテレビ論鈴木おさむ」)

      

(3) 林さんが言ってくれた言葉はとても暖かく優しかった。結果、このあと、「金スマ」で放送した時には、視聴率は悪くありませんでした。(同上)

     

         

 

 (2) (3) に出てくる「結果」も、正しくは「結果として」を用いるべきだと思われますが、最近は話し言葉ではよく使われています。

 

 「一択(いったく)」という語は、「この店のカレーはおいしい。私の一択です。」のように使われます。「二択」は「AとB、二択のどちらから選んでください。」のように選ぶものが2つあることを表すが、「一択」は「他に選ぶものがない、迷うものがない、これが一番よい」という意味になります。

            

 この「一択」の使い方も若い人達の間で使われているようですが、私なんかはまだ使い方がピンときません。

 

 私が最近引っかかっているのが、「移住」(いじゅう)という言葉です。

私達のようなシニア世代だと、「移住」は、「南米に移住する」「ブラジルに移住する」のように、遠いところ、通常は外国に移り住むという意味で使っていたし、使われていました。しかし、最近はそんなに遠くなくても、また、日本の中での移動でも「移住する」という語が使われているようです。NHKの「いいいじゅー‼」」(火曜日0:20~)という番組でも、「埼玉への移住」とか「千葉への移住」のような国内移住を紹介しています。

 

  

         

 

「移住」について国語辞書を引いてみましょう。

 

広辞苑①他の土地または国へ移り住むこと。「例:移住者」

    ②開拓・征服などの目的で種族・民族などの集団が、ある土地から他の土地へ移動・定住すること

大辞林①住む所を移すこと。

    ②開拓・植民などのために、国内の他の地あるいは国外の地に移り住むこと。「例:ブラジルに移住する」

岩波国語辞典:よその土地にうつり住むこと。「南米に移住する」

明鏡国語辞典よその土地に移り住むこと。特に、開拓や商業活動などのために外国に移り住むこと。「例:南米に移住する。遊牧民が牧草を求めて移住する」

 

 辞書によって「移り住む」という意味だけを載せているものと、それにプラスして、「外国」、それも開拓や征服を求めて「外国へ行く」という意味両方を載せているものが見られます。

 そして、例文には「南米・ブラジル」など、以前、日本人が開拓を目指して出かけていった国や地域を載せているものが多いようです。

 ここで言えることは、「移住する」という語は、以前は主に「外国へ、開拓や商業活動のために移り住む」という意味で使われていたものが、最近では、国内外を問わず、生活のためによその土地に移り住む」というほどの意味で使われているのだと考えられます。

 私などは以前の使い方が慣れているので、今風に「埼玉に移住して、農業生活を楽しんでいる」はちょっと引っかかるのかもしれません。

 言葉を考える時に、その当該の語と似ている語(類義語)を合わせて考えると、その語の意味や用法がより明確、幅広くとらえることができます。

「移住する」の類義語にはどんなものがあるでしょうか。

 

「移住する」の「類義語」:

  移動する、引っ越す、転居する、移り住む、移る

 

 「移動する」は、動きだけに焦点を合わせ、人・ものがA点からB点へ動くことを表します。「引っ越す」は生き物がA点からB点へ動くことを表しますが、家財道具とともに動くなど、生活の場を移動する、変えるという意味を持ちます。

「転居する」は意味的には「引越しする」と似ていますが、やや硬い、役所言葉的な感じがあります。引っ越す時に出す書類は「転居届」であって、「引越し届」ではないですね。

        

 

        

        

         

  
 では、ここで宿題です。

 あなたのまわりに、今日紹介した「推し」「結果」「一択」「移住する」のように、使い方や意味合いが昔(以前)と少し違って使われている、使われているとあなたが感じる言葉はありませんか。

もし、あれば、いくつでもかまいません。教えてください。

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