92)旅行・紀行番組に思う

「最果て秘境×鉄道」と題するNHKのBS番組(再放送)を見た。「ミャンマーの山岳路線終着駅は地図にない村」というような副題だった。

ミャンマービルマ)にはたくさんの民族が住んでいる。ビルマ族が人口約51万人強の70%を占め、少数民族としてシャン族、カチン族、カヤー族、モン族、カレン族、アラカン族のほかに、100ほどの民族がいるという。

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番組の中でも、夫と妻が別の異なる民族のため言葉が通じず、共通語としてビルマ族の言語(ビルマ語)を使っているというシーンがあった。

山岳路線は1200~1300mの高地を15kmのスピードで、スイッチバックしたり、切り替えをしたり、ジグザグに進んだりして上っていく。列車は1日に2本程度しかない場合が多い。

出発点はシャン州のナムツ駅である。ミャンマーを旅行するのは若い男性の俳優Mで、いつも大きなリュックを背負って、列車で出会うミャンマー人に「こんにちは」の意味の「ミンガラバー」と言って回る。「ありがとう」の「チェーズチンバー」も使っていたし、臆することなく現地の人達に入り込んでいく。明るく大らかで、態度も丁寧でよい。

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列車は日本の中古のものが使われていたり、1車両しかないものもあった。また客車の中は木張りの長椅子しかない列車もあった。

森や林の間に畑を作り、その近くに家を建てて、多くの人が農業に従事している。畑で採れた野菜や果物、また米粉などで作ったドーナツやお菓子を町に売りに行くのは中年のおばちゃんである。

どこの国でもおばちゃんはたくましい。頭の上にかごを載せて、列車に乗って売りに回る。俳優Mはおばちゃんに、もちろん許可をもらってだが、付いて回る。付いて回ったところで撮影された情景や出来事が、番組の内容そのものになる。

市場での商人とのやり取りや、現地のミャンマー人とのやりとりが自然で面白い。惣菜店や菓子店では店の人がMに盛んに試食を促す。Mも遠慮せずに差し出された総菜や揚げ物を食べる。

私は若いころタイに滞在したことがあるが、市場や売店で売っているお菓子を食べて、かなりの下痢をしたことがある。友人も時期は異なるが、やはり下痢で苦しんだ経験を持つ。

俳優Mが差し出される食べ物を遠慮なく次から次へと食べるので、大丈夫かなとちょっと心配になった。

一つの列車が野菜やお菓子販売のおばちゃん達で一杯になった。ワイワイガヤガヤ楽しそうである。おばちゃん達は次から次へとお菓子を配る。自分が食べるのが目的なのか、人に食べさせるのが目的なのか、たぶん両方だろうが、Mの元にもせんべいやドーナツ、アメなどが届く。Mはどんなものでも決して断らない。どんどん食べていく。

その中のお菓子売りのおばちゃんが、自分の家でお菓子を作っているからと、Mを自宅に招待した。Mは断らない。おばちゃんが降りる駅で降りて、ずっとおばちゃんに付いていく。おばちゃんの家には父親と子供が3人いた。おばちゃんは外のコンロに火を起こし、大きな鍋に油を入れて、ドーナツを揚げる。おばちゃんができ立てのドーナツをMに渡す。でき立ては何でも「おいしい」。そうやって、Mはミャンマー人の行為に甘えながら、列車の旅を続けていく。

私はふと疑問に思った。いろいろな番組で、「〇〇へ行く」「△△紀行」というような旅行・紀行番組を撮るとき、撮影側は協力してくれた現地の人々に、きちんとお礼をしているのだろうか。

今回のミャンマーの旅行では、おばちゃん達や店の人からの、一回一回は小さなものでしかないが、いくつかの(かなり多くの)お菓子がMに渡っている。もらったほうは、彼等への感謝はどう表しているのだろうか。

おばちゃん達は見返りを期待していないだろうし、相手の好意にきちんと言葉や態度で感謝すればいいという考え方もある。いちいち返礼などしないほうがよいという考え方もあろう。しかし、このような現地を訪ね歩く旅行では、必ず現地の人達に大なり小なりお世話になるということは、事前に分かっていることではないだろうか。それであれば、Mももらうばかりでなく、何か小さい日本のお菓子を、たとえ一粒ずつでもおばちゃん達に渡すことができるのではないか。

お世話になる人達の数が多いから、荷物になるかもしれないが、例えば、日本には古くから金平糖なるアメ菓子がある。あれを用意しておいて、おばちゃん達に1粒でも2粒でもよい。「お礼に日本のお菓子をどうぞ」と差し出すことができなかったか。どこを切っても切り口が同じ顔の金太郎アメがある。あれなんかも、きっとおばちゃん達は面白がるだろう。本当に1粒でよいから、差し出してほしかったと思う。

 

日本人は欧米人よりアジア人のほうが気楽に付き合える。また、都会でなく田舎の人達のほうが素朴で、親切である。ある国を訪問して旅行する場合は、くれぐれも相手への配慮と礼儀を尽くすように努力してほしいと思う。